鑑別疾患を挙げるためのコツ集〜コツさえ分かればメジャーな疾患は鑑別に挙げられる!〜#5

このページの最低限の目標

目標1:臓器固有疾患群の考え方のコツ4つを知り、参考にする

目標2:各カテゴリにある太字記載のコツに関しては少なくとも覚える

細かいと感じたところはスルーして太字だけ読んでもらえれば大丈夫です。大枠が理解できれば良いので・・・

臓器固有疾患群を考えるコツ

 臓器固有疾患とは、症状+臓器+病態(VINDICATE P2)で考えても鑑別に挙げにくい疾患のことです。
 例えば、呼吸困難+肺+VINDICATE P2で考えた時、喘息やCOPDは鑑別に挙げにくいので、喘息・COPDは肺の臓器固有疾患と考えます。なぜそうすると良いのか参考にしたい人は前回の記事をお読みください。
 これらの疾患を挙げやすくするためのコツを4つ紹介します。

  1. 構造異常と機能異常で大雑把に分類して想起する
  2. 構造異常では詰まる・捻れる・破れると「変形」を主に考える
  3. 機能異常では、機能の亢進・低下を主に考える(臓器の機能異常も当然考える)
  4. 必要に応じて疾患名に修飾語をつける

病態カテゴリごとのコツ(VINDICATE P2)

 臓器固有疾患のコツ1ー4の具体例はVascular(心血管)で具体例を紹介します。心臓以外の臓器でも同様に考えますので、参考にしてみてください

 赤字が出たカテゴリに書いてあるコツはよく使うので、飛ばさず読むことをお勧めします。

Vascular(心血管)

心血管は臓器カテゴリで考えることができるので、上記の臓器固有疾患のコツを使います。

コツ1:構造異常と機能異常で大雑把に分類して想起する

構造異常で考える心血管疾患

コツ2:構造異常では、「詰まる・捻れる・破れる」、変形などを主なカテゴリとして考える、解剖部位名に症をとってつける

・血管が「詰まる・捻れる・破れる」を考える(特に突然発症の場合)

例えば、

詰まるもの:脳梗塞、心筋梗塞・肺血栓塞栓症/DVT、脳梗塞など

破れるもの:脳出血、大動脈解離*1、大動脈瘤破裂、腹腔内出血など

捻れるもの:腸捻転、精巣捻転、卵巣捻転など

*1解離は破れるというより裂けるですが、個人的に破れるのイメージでも問題なかったのでここで挙げています

 また、解剖部位名に症をとってつけることもコツです(ただし、このコツを使える臓器は心臓や脳、腎臓などに限られています)

 心臓を解剖から考えて、心筋、弁と大雑把に分類し、これらの解剖部位名に症をとってつければ良いです。
 心筋症、弁膜症を考えることができます。
 さらにここにコツ4を使うと鑑別の幅を広げられます。

コツ4:必要に応じて疾患名に修飾語をつける

 心筋症に拡張型、肥大型など修飾語をつけると良いです。

 弁膜症は大動脈弁/僧帽弁の狭窄症/閉鎖不全症なのか修飾することで鑑別を広げられます。

機能異常で考える心血管疾患

コツ3:機能異常では、機能の亢進・低下を主に考える(臓器の機能異常も当然考える)

 心臓の機能はポンプ機能なので、拍出量や心拍数の異常を主に考えます。これらについて、機能異常は亢進・減弱について考えます。

 ・拍出量の低下⇨心不全
 ・心拍数の亢進・減弱⇨各種不整脈(頻脈:Af, PSVTなど / 徐脈:AVブロックやSSSなど)

                  心臓のまとめ
 心血管カテゴリで考えられると良いのは、コツを使って出す以下の4つ。
・構造異常で詰まる・捻れる・破れる系の疾患
・解剖名+症+修飾語でできる系の疾患
・心不全(不全系セット
・不整脈(機能亢進=頻脈系不整脈、減弱=徐脈系不整脈)

 重要:全身状態に関する症候(全身倦怠感、体重変化など)の場合、心不全・呼吸不全・肝不全・腎不全をセットで挙げると良いです。全身状態には「心肺が肝腎」と覚えています。すべて不全とつくので、不全系セットと読んで調子が悪いなら考えてみるようにしています。よく使う考え方なので覚えておくことをお勧めします。
 セットでは原因となる疾患を考えることがコツなので、以下の疾患を考えられるとさらに鑑別を挙げるのが楽になります。
・呼吸不全ではCOPDなど
・肝不全では肝硬変・ウイルス性肝炎・NASHなど肝機能異常を生じるもの
・腎不全では、ネフローゼ(蛋白尿)とネフライティス(血尿)
 ネフローゼには例外はありますが「〜腎症」に多く、Nephritisには「〜腎炎」と炎がつくものが多いイメージです。

Infection(感染)

1:考えている解剖部位名にとりあえず炎をつけてみる

2:病原菌の種類を考える=細菌、ウイルス、結核、かび(真菌)、原虫+膿瘍

3:細菌の中でもさらに原因を考えたい場合、グラム陽性菌・陰性菌、球菌・桿菌というカテゴリから考えると良いです

4:修飾語を加える(必要があれば)

・1について、特に痛い時や発熱がある時にコツ1の効果が発揮されやすいです。
 例えば、腹痛で胃・十二指腸、小腸、虫垂、大腸、肝臓、胆嚢、膵臓、子宮などを鑑別臓器として考えた場合はこれらの臓器名に〜炎をつければ良いだけです(中にはうまく言葉を変える必要のあるものもありますが・・・)

腹痛の鑑別臓器+炎=胃腸炎、虫垂炎、大腸炎、肝炎、胆嚢炎、膵炎、子宮内膜炎など


・さらにここで4のコツ(修飾語)を使うと、虚血性 / 感染性 / 薬剤性 / 潰瘍性大腸炎、ウイルス性肝炎、急性 / 慢性膵炎などと鑑別の幅を広げることができます。

・2について、感染らしさがある症例では感染カテゴリをさらに細分化して考えます。僕は結核を忘れやすかったので、1つのカテゴリとして独立させてあります。
 例えば、既往のない50歳男性が急性発症の発熱で来院し、湿性咳嗽を伴う場合は感染症(特に肺炎)らしさがあると考えます。このような場合は、感染カテゴリを「細菌、ウイルス、結核、かび(真菌)、原虫」に細分化して、細菌性肺炎、ウイルス性肺炎(マイコプラズマなど)、結核などを鑑別に挙げます。カビや原虫は、頻度の高い細菌、ウイルス、結核を考えてから必要があれば考えます。Post CC OSCE的には不要かもしれません。
・さらにここで3のコツ(グラム染色)を使うと細菌性であれば、グラム陽性球菌の肺炎球菌グラム陰性桿菌のインフルエンザ桿菌グラムで染まらないレジオネラなどを考えることができます

Neoplasm(腫瘍・血液疾患)

1:腫瘍は臓器名+癌・ポリープを考える

2:腫瘍は原発と転移、悪性と良性をセットで鑑別

3:血液疾患は血液腫瘍と赤血球・白血球・血小板カテゴリ(赤・白・黄色)から考える

・1について、大腸で腫瘍を考えた場合、大腸癌や大腸ポリープを挙げます。

・2について、例えば、脳腫瘍や肝臓腫瘍を考えた場合、その腫瘍が原発性か転移性か、悪性か良性かを意識しています。

・3について、赤血球では増加・減少を考えて、主に多血、貧血・溶血などを連想します。
 多血はPost CC OSCE的には対策は不要です。
 貧血がある場合、消化管出血・性器出血、血尿、血痰など外界に通じる穴からの出血を考えると良いです。Post CC OSCEや頻度的には消化管出血と性器出血を覚えておくと良いと思います。

・白血球であれば顆粒球(好中球、好酸/塩基球)・リンパ球(T cell, B cell, 形質細胞など)のカテゴリを意識して、白血病・リンパ腫・多発性骨髄腫などの血液腫瘍を挙げます。

・血小板では増加・減少を考えますが、減少するITPやHUS・TTPが考えられれば良いと思います。

・亢進・減弱と同様に多くなるもの、少なくなるものを考えるとさらに鑑別は増えます(赤血球が増えるものは真性多血症や男性ホルモンの使用など、減るものは貧血・溶血など)

Drug(薬剤性・中毒・依存)

1:全身症状があり、左右対称な症状であれば、薬剤性・中毒を鑑別として忘れない

2:中毒・依存症は意図的なものでない場合、生活にその原因を追求できることが多い。食事、仕事、嗜好品のカテゴリから連想

・1について、薬剤性・中毒では有毒物質を含んだ血が全身を巡って全身性・左右対称に悪さをすることをイメージすると良いです。万物は適量以下では薬(または無害)、過量では毒になるので薬剤性と中毒はセットです。左右対称で全身性の症状の場合、血を介して症状が出ることが考えられるなら薬剤性・中毒だけでなく、代謝・栄養・内分泌・電解質などのカテゴリも鑑別に上がります。
 薬剤性は各人が代表的なものは覚えて知識を蓄積する必要があります。
 薬剤性カテゴリで、薬剤+下痢=クロストリジウムを思いつけるようにしておくのはお勧めです。

・2について、食事⇨仕事⇨休憩というイメージを持つとカテゴリを覚えておきやすいです。
・食事は自然毒でボツリヌスなどです。
・仕事は第一次産業(農業)で熱中症、農薬中毒。第二次産業(工業)で金属中毒、CO中毒。第三次産業(サービス業)でカフェイン中毒など。
・嗜好品は酒・たばこ・コーヒー=アルコール・ニコチン・カフェインの他、大麻など麻薬中毒。

Immune(免アレ・血管炎=自己免疫、アレルギー、血管炎)

 あまり良い覚え方ではないので、恥ずかしいのですが、少しでも参考になればと思い、紹介しておきます。

自己免疫は全身性の抗体あり・抗体なし(sero-negative)、局所自己免疫を考える

・抗体ありはMCTD系+BR4MS(=ブラームス(4はAに似ている))で疾患を思い出します。
 MCTD系は、MCTDの原因となる皮膚+筋肉+関節の疾患をそれぞれ挙げて、強皮症+PM/DM(多発筋炎/皮膚炎)+SLE・APSをセットで考えることです。
 ブラームスは英語の疾患名の頭文字をとったものです

抗体あり:MCTD系+ベーチェット(B)+RA+IgG4関連疾患+MG+シェーグレン(S

※RA=Rheumatoid Arthritisは関節リウマチ、MG=Myasthenia gravisは重症筋無力症のことです。
他にも自己抗体がある疾患はありますが、代表的だと思うものを覚えるためのゴロです。

・全身性の抗体なしの疾患はStill PAIRSというゴロで思い出せるようにしておきます。

・全身sero-negative :Still PAIRS=Still病+Psoriasis(乾癬)+ AS(強直性脊椎炎)+ IBD(過敏性腸症候群)+ Reactive arthritis(反応性間接炎)+サルコイドーシス(S

・局所の自己免疫は主に肝胆膵をイメージしてAIH、PBC・PSC などを考えます

・アレルギーはアナフィラキシー、蕁麻疹、花粉症・ハウスダストを連想するようにしています。

・血管炎は大・中・小に分類して考えます。

大血管:高安、側頭動脈炎
中血管:PN、川崎病、シェーンラインへノッホ
小血管(喀血、血尿):ウェゲナー、チャーグシュトラウス、顕微鏡+グッドパスチャー

・参考になればと思っていろいろ紹介しましたが、Post CC OSCE的には、ImmuneカテゴリではMCTD系・RA・Still病、クローン・UCなどは最低限挙がればと良いと思います。

Congenital(先天性)

特になし

Anatomy(皮膚・筋骨格・関節)

皮膚科疾患は~疹・~癬とつくものを挙げる

・皮膚は薬疹で重要なSJS/TEN、機能異常+亢進で乾癬が出せれば良いと思います。

・筋骨格・関節疾患は臓器固有疾患のコツを使って、構造異常をメインに考えます。

筋肉:急性腰痛、横紋筋融解
脊椎:頸椎症、椎体圧迫骨折・ヘルニア、脊柱管狭窄
四肢の骨:変形性関節症(OA)、骨折

・こじつけですが、詰まると狭窄病変、捻れると骨折、破れるとヘルニアが僕にとっては近いイメージです。このように臓器固有疾患のコツを想起するのに利用しています

Trauma(外傷・異物)

外傷があれば、構造異常と機能異常を探す

・構造異常は骨折や軟部組織の損傷です。

・機能異常が重要で、血管と神経に問題ないかを考えます

・血管は破れていないか確認します。老人の転倒で慢性硬膜下血腫、若者では急性硬膜外血腫や椎骨脳底動脈解離などを連想します。腹腔内出血やコンパートメント症候群も重要です。

・神経は脳神経と四肢が動くかどうかを確認し、脳・脊髄・末梢神経のどこに問題があるか考えます。

Endocrine(代謝・栄養・内分泌・電解質)

 全身性・左右対称に症状が出ている場合、血を介して全身・左右対称に作用している可能性が考えられるので、Endocrineカテゴリは考えると良いです。
 逆に局所・左右非対称な場合はEndocrineカテゴリ疾患の可能性は下がりますが、痛風・偽痛風など血を介して局所で影響を受ける場合もあるので注意は必要です。

1:代謝では有害物質を処理できないものを鑑別に挙げる

2:栄養は5大栄養素から考える

3:内分泌は甲状腺・副腎・膵臓をセットで考える

・1について、代謝異常の場合、処理場が機能していないことから肝不全や腎不全、その結果である肝性脳症・尿毒症を考えます。
 その他、痛風や偽痛風なども鑑別に挙げると良いです。
 つまり、代謝カテゴリを疑った場合、肝不全・腎不全(肝性脳症・尿毒症)、痛風・偽痛風を挙げます

・2について、5大栄養素とは、糖・タンパク・脂質+ビタミン・ミネラルの5つ
糖:糖尿病や低血糖(糖が多い・少ない)
タンパク:ー
脂質:高脂血症
ビタミン:脂溶性のビタミンD,A,K,Eの過剰症・欠乏症や水溶性のB群とCの欠乏症
ミネラル:微量元素で鉄やカルシウム、マグネシウムなど

・過剰・欠乏はセットで考えると良いです。
・脂溶性ビタミンは脂肪にとどまり排泄されにくいので過剰症があるが、水溶性は尿中に排泄されるので過剰症は稀。

3が最も重要です。鑑別臓器を上げようとした時に甲状腺・副腎・(内分泌的な文脈での)膵臓は忘れることが多いからです。

甲状腺は機能について亢進・減弱を考えれば良いです。

副腎は解剖に基づいて、皮質由来の塩(アルドステロン)・砂糖(コルチゾール)・Sex(アンドロゲン)と髄質由来のカテコラミン関係の疾患を考えます。Post CC OSCE対策では不要ですが、皮質のホルモンは3S(Salt, Sugar, Sex)から連想して深い層ほどSweetなもの(Sexが一番Sweetなのでアンドロゲン分泌層が一番深い)と覚えます。

膵臓は高血糖(DMやDKA・HHSなど)・低血糖を考えます。

必要であれば下垂体や視床下部まで考えると良いです。

電解質はNa/K/Ca/Mgなどを考えます。

Psych(精神)

精神はアップ系、ダウン系、3大欲求系に分類して考える

・アップ系では躁や不安障害に分類される疾患などを連想します。アクティブに動いたり、心配でそわそわしたりと落ち着きがないイメージがあるからです

・ダウン系ではうつ病や陰性症状の統合失調症などを連想します。暗いイメージの疾患です。

・3大欲求系では、食事・睡眠・セックスを考えます。食事では過食・拒食、睡眠ではSASやムズムズ脚、セックスではEDや性同一性障害などがあります。
 特に拒食症はPost CC OSCE対策として重要なので思い出せるようにしておくことをお勧めします。

精神では、アップ系で躁や不安障害、ダウン系でうつや統合失調症、3大欲求で拒食症を思いつくようにしておくと良いです。

Pregnancy(産婦人科)

・女性を見たら妊娠を疑う
・妊娠関連疾患は時期で分類して考える

産科早期:正常妊娠・妊娠悪阻、異常妊娠として流産や子宮外妊娠など
産科晩期:早産、早期剥離・前置胎盤、子癇・HELLPなどを考えます。

・婦人科は臓器固有疾患のコツに基づいて考えます

・まずは、構造と機能に分類して考えていきます。
・構造では膣、子宮(内膜・筋層)、卵巣に分けて考えます。
子宮:子宮内膜症
卵巣:卵巣出血、卵巣捻転 などを覚えておきます。
婦人科疾患を疑う場合は、膣、子宮(内膜・筋層)、卵巣をイメージしながらVINDICATE P2を考えます。
・機能では年齢や亢進減弱をキーワードに考えます。
若年:機能性子宮出血・PMS
高齢:機能性子宮出血・更年期など

振り返り

最後に最低限の目標について振り返ります。

目標1:臓器固有疾患群の考え方のコツ4つを知り、参考にする
目標2:各カテゴリにある太字記載のコツに関しては少なくとも覚える

#2から#4では、解剖アプローチ・病態アプローチを使って鑑別臓器・鑑別病態から鑑別疾患を挙げられるところまでできるようになったと思います。

鑑別が挙がれば問診につなげることができます。

どのように問診を考えると良いのかを次の章で紹介します。

次の記事は、ステップ1の総まとめ的な位置づけの記事になっています。

最後まで読んで頂きありがとうございました。

僕の勉強法が少しでもその参考になり、お役に立てば嬉しいです。

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