病態カテゴリ(VINDICATE P2)を覚えて鑑別疾患をもっとたくさん上げよう#4

このページの最低限の目標

  • 目標1:病態アプローチを使えるようになること
  • 目標2:主訴×解剖×病態アプローチで鑑別疾患まで考えられるようになること
  • 目標3:臓器固有疾患という分類を知ること
  • 目標4:鑑別疾患のセットという考え方・メリットを知ること

最低限の目標は以下のステップを押さえると達成できるように紹介していきます。

細かいと感じたところはスルーして太字だけ読んでもらえれば大丈夫です。思考体系が大体理解できれば良いので・・・

前回の内容をおさらいしたい人はここをクリック

(まず結論だけ知りたい方はまとめへ)

ステップ1:病態アプローチとは何かを知る

主訴から原因となる病態の候補=鑑別病態を挙げることです。

・例えば、頭痛の原因を考える時に、どのような病態・機序で頭痛が引き起こされているか候補を挙げることです。

・この時、候補となる病態カテゴリはVINDICATE P2というゴロを使って覚えます(詳しくはステップ2で後述)。方法は何でも良いので、とにかく病態カテゴリを列挙できるようにすることを強くおすすめします。

・全身倦怠感など病変がどこの臓器にあるか特定しにくい=局在がない場合は、病態アプローチをメインで使うと良いです。

・例えば、全身倦怠感+Vascular=心不全、全身倦怠感+Infection=結核、全身倦怠感+Neoplasm=悪性腫瘍全般・・・という感じです。

・頭痛・腹痛など痛い系の症候、めまいや呼吸困難など病変が特定の臓器に局在があると想定しやすい場合は解剖アプローチを使いますが、さらに病態アプローチを加えると良いです。(主訴×解剖×病態アプローチで後述)

ステップ2:病態アプローチの具体的なやり方をマスターする

VINDICATE P2をまず覚えましょう病態カテゴリの頭文字をとったゴロ合わせのことです。

・VINDICATEとは正当化する、証明するなどの意味があります。

・本家のものを僕が使いやすいように少しアレンジしたゴロを紹介しています。本家を覚えたい方は注意してください。

本家と異なる場所には*がついています

Vascular⇨心血管

Infection⇨感染

Neoplasm⇨腫瘍・血液疾患 *1

Drug⇨薬剤性・中毒・依存 *2

Immune⇨免アレ・血管炎 *3

Congenital⇨先天性

Anatomy⇨皮膚・筋骨格・関節 *4

Trauma⇨外傷・異物

Endocrine⇨代謝・栄養・内分泌・電解質 *5

Psych⇨精神 *6

Pregnancy⇨産婦人科 *7

補足を以下に示します

  • Neoplasmは腫瘍と忘れやすい血液腫瘍や血液疾患をセットにしました
  • Drugでは、薬は量を間違えれば毒にもなるので薬剤性と中毒・依存はセットにしました
  • DegenerativeよりDrugの方が使う頻度が高かったため変更しました。必要に応じて変性疾患を考えます
  • Immuneでは免疫アレルギーに免疫の中で忘れがちな血管炎もセットにしました
  • Congenitalはあまり使わない印象です。Congenitalが必要になる場合は、本家のVINDICATEが有用な場合が多いです
  • Anatomyは人間らしい形や動きを作れるものというイメージで皮膚・筋骨格関節(皮膚科+整形外科疾患)。僕が皮膚・筋骨格関節を忘れやすいためAnatomyと改変しました
  • Traumaでは、外傷と忘れがちな異物(Post CC OSCE的には異物は不要)をセットにしました
  • Endocrineでは代謝・内分泌の代謝に栄養を、内分泌に電解質を加えてセットにしました。鑑別カテゴリの幅を広げるためです
  • Psychは精神疾患のことです
  • Pregnancyは産婦人科疾患と拡大解釈します

本家と異なるものについて

*1:本家は腫瘍のみ。血液疾患は含まれない *2:本家はDegenerative=変性疾患 *3:本家はIatrogenic=医原性、Idiopathic=特発性、Intoxication=中毒、Inheritance=遺伝性 *4:本家はAllergy&Autoimmune *5:本家はEndocrinopathy+Else *6:本家になし *7:本家になし

自分が使いやすい病態カテゴリの列挙法を見つけることがこのステップの最大の目的です。

この目的を達成するため、本家のものや僕のアレンジ版などが参考になればと思い紹介しました。僕のアレンジ版は覚え方に癖があり賛否両論あると思うので、その都度自分に使い勝手が良いように解釈しなおしてもらえればと思います。

ステップ3:病態アプローチの活用方法(局在がない場合)

以下に示すチャートが実践できるように鑑別病態が関係する部分のアプローチができるようにします。

Post CC OSCE 鑑別疾患の思考回路を示すチャート

 チャートを見ると分かるように、病変に局在が乏しい場合(全身症候系)と局在がある場合(全身症候系ではない)で、病態アプローチの活用方法が異なるので場合分けして紹介します。

ステップ3ー1:局在が乏しい症候の場合⇨病態アプローチをメインで使って鑑別疾患を挙げる

・主訴を聞いた時、病変の局在を想定しにくい場合(全身倦怠感など全身症候系)は、病態アプローチをメインで使うことが多いです。

・例えば、主訴が全身倦怠感の場合、病変の局在は想定しにくいので病態アプローチを使います。病態アプローチを使う時は、症状+鑑別病態で考えていきます。

全身倦怠感+Vascular(心血管)=心不全など

全身倦怠感+Infection(感染)=結核

全身倦怠感+Neoplasm(腫瘍・血液疾患)=悪性腫瘍全般、貧血

全身倦怠感+Drug(薬剤性・中毒・依存)=薬剤性、中毒該当なし、依存該当なし

全身倦怠感+Immune(免アレ・血管炎)=(Post CC OSCE的には)該当なし

全身倦怠感+Congenital(先天性)=該当なし

全身倦怠感+Anatomy(皮膚・筋骨格・関節)=該当なし

全身倦怠感+Trauma(外傷・異物)=熱中症(暑さによる外傷と僕は広義に解釈してるため)、異物に該当なし

全身倦怠感+Endocrine(代謝・栄養・内分泌・電解質)=内分泌は甲状腺機能異常、その他に該当なし

全身倦怠感+Psych(精神)=うつ病

全身倦怠感+Pregnancy(産婦人科)=更年期

・このように病態アプローチを使う時は、VINDICATE P2を順番に考えていき、当てはまる疾患があるかないかを判断していけば良いです。あれば適当なものを挙げます。

・コアカリの鑑別疾患リストと比べてみて、挙げられなかったものがあれば意識的に覚えます。例えば、上の例では全身倦怠感+Pregnancy(産婦人科)で更年期以外に妊娠を忘れないようにする、更年期と妊娠を同時に挙げるようにしてしまおうなどという感じです。

・病態アプローチを使っても出せない可能性のある疾患(例えば肝機能障害や腎不全*1)はセット(後述*1)の力を借りて出せるようにする、地道に覚えるなどして臨機応変に対応します。対応方法に規則性があまりないので、詳しくは各論を参考にしてください。

*1:肝機能障害や腎不全は、例えば代謝・栄養疾患や電解質疾患と解釈してEndocrineで鑑別に挙げられるようにするのは方法の1つです。この方法は僕には覚えにくいものだったので、病態アプローチではおそらく出せないと判断し、心不全セット(心不全・呼吸不全・肝不全・腎不全=心肺が肝腎)を作って対応しました。心不全セットのどれか1疾患が鑑別に挙がった場合に他の3疾患もセットで考えるようにしたのです。こうすることで、病態アプローチで出せない疾患があっても、セットの中の1疾患でも病態アプローチで挙げることができれば他の疾患を漏れなく検討することができます

・病態アプローチも解剖アプローチと同様に系統的・網羅的・再現性の高いアプローチが可能、鑑別疾患の見逃しが減る鑑別疾患を多く挙げられるというメリットがあります。

問診は解剖アプローチに比べるとやや不便ですが、ある程度系統的に行うことが可能です。

・例えば、全身倦怠感で挙がった鑑別病態があれば以下のようにして聞いていきます。

・心血管が鑑別病態⇨浮腫・動悸・呼吸困難など心血管症状を聞く

・感染が鑑別病態⇨発熱、周りに同じ症状の人がいないか、旅行・ペットなど感染症状を聞く

・腫瘍が鑑別病態⇨健診、体重変化・食欲変化など腫瘍症状を聞く

以下続く・・・・・

ステップ3ー2:局在がある症候の場合⇨解剖アプローチを使ったあとに病態アプローチを併用する

・局在があれば(全身症候系でないなら)解剖アプローチを使います

・例えば呼吸困難が主訴の場合、解剖アプローチを使うと肺、心血管が鑑別臓器として挙がります。これだけでは、呼吸困難+肺=肺炎 / 呼吸困難+心血管=肺塞栓症などしか挙がらないかもしれません。そこで、病態アプローチを併用して考えるようにします。つまり、主訴×解剖×病態アプローチで鑑別疾患を考えていきます。

・病態アプローチを併用すると肺塞栓以外にも以下のような鑑別疾患を考えることができます。

呼吸困難+肺+Vascular(心血管)=肺塞栓症、心不全

呼吸困難+肺+Infection(感染)=肺炎

呼吸困難+肺+Neoplasm(腫瘍・血液疾患)=肺癌

呼吸困難+肺+Drug(薬剤性・中毒・依存)=(Post CC OSCE的には)該当なし

呼吸困難+肺+Immune(免アレ・血管炎)=該当なし

呼吸困難+肺+Congenital(先天性)=該当なし

呼吸困難+肺+Anatomy(皮膚・筋骨格・関節)=該当なし

呼吸困難+肺+Trauma(外傷・異物)=(外傷性)気胸

呼吸困難+肺+Endocrine(代謝・栄養・内分泌・電解質)=該当なし

呼吸困難+肺+Psych(精神)=パニック障害

呼吸困難+肺+Pregnancy(産婦人科)=該当なし

・主訴+臓器+病態の3つをダイヤルロックのように回転させて、系統的・網羅的に鑑別疾患を挙げていきます。この時、鑑別疾患が多く挙げられそうな臓器から考え始めると良いです。上記の例では肺から考えました。
 実際にはPost CC OSCEでは時間がないので、鑑別臓器数が多い場合は主訴+臓器または主訴+病態の2つの足算に留めます。鑑別臓器が少ない場合1つの臓器だけは主訴+臓器+病態の3つの足算で考えますが、その他の鑑別臓器では基本的に主訴+臓器のような2つの足算で考えます。

Post CC OSCEの鑑別の対策・勉強法を伝えるための画像

・肺について考えたら、残りの鑑別臓器(上記の例では心臓)については呼吸困難+心臓でMIなどと考えていきます。

・病態カテゴリから鑑別疾患をどう挙げるかに関しては、病態カテゴリごとにコツがあり、#5鑑別疾患を挙げやすくする病態ごとのコツ集 で紹介します。

ステップ4:臓器固有疾患群とは何かを知る

・主訴+臓器+病態で鑑別疾患を考えることが紹介した方法の中では最も強力だと思いますが、もちろん完璧ではありません。
 例えば、呼吸困難+肺+VINDICATE P2を考えて、喘息やCOPDなどを思いつくことは難しいです。このように、主訴+臓器+病態で鑑別疾患に挙げにくい疾患臓器固有疾患と呼ぶことにします。
 臓器固有疾患は鑑別臓器が挙がった時点で考えることをお勧めします。例えば、呼吸困難であれば、鑑別臓器として肺を考えていく時にまず喘息やCOPDから考え始めると良いです。
 既出の鑑別の思考回路を示すチャートをもう一度確認すると理解が深まるかもしれません。

・上述の呼吸困難の例を振り返ると分かるように、主訴+臓器の段階で喘息やCOPDを挙げられないと主訴+臓器+病態の段階になっても挙げられないことが多いです。だからこそ、臓器固有疾患は意識的に覚えておく必要があると思います。

・逆に、肺癌やパニック障害などは主訴+臓器の段階で想起できなくても主訴+臓器+病態で想起できるので意識的に覚える必要性はあまり高くありません。

ステップ5:鑑別疾患のセットとそのメリットは何かについて知る

・臓器固有疾患という枠組みで鑑別疾患をグループ化しましたが、このようにある枠組みで鑑別疾患をグループ化することはとても有用です。

・ある枠組みに基づいて鑑別疾患をグループ化したものセットと考えます。

・例えば、臓器固有疾患は鑑別臓器が挙がった時点で考えると良い疾患のセットであると言い換えることができます。肺であれば、喘息・COPDなどです。

・セットを作るための枠組みは自分が覚えやすいなら何でも良いです。個人的には、以下の観点でセットを作ることが多いです

  • 症状が似ている
  • 重症度が高い
  • 続発する
  • 臓器固有疾患に分類される

具体例を挙げると、

症状が似ている:「髄膜炎・脳炎」、「虫垂炎・子宮外妊娠・尿路結石」、「食道癌・アカラシア」

重症度が高い:「心筋梗塞・肺血栓塞栓症・大動脈解離・大動脈瘤破裂・緊張性気胸・食道破裂」

続発する:「心筋梗塞・心不全」、「尿路結石・腎盂腎炎」

臓器固有疾患:「BPPV・メニエール・前庭神経炎」「心不全・不整脈」

・セットに含まれる1つの疾患が鑑別に挙がる場合、セット内の他の鑑別疾患を連想するようにします。これによって臓器固有疾患のバックアップにつながることが大きなメリットです。

 例えば、嚥下障害を考える時に主訴+臓器で鑑別疾患を考えてアカラシアが挙がらなかったとします。しかし、その後に「主訴+臓器+病態で食道癌を鑑別に挙げられる」+「食道癌とアカラシアをセットにしている」⇨食道固有疾患のアカラシアはセットの概念のおかげでバックアップされ、鑑別疾患に挙げることができます。

・さらに問診に役に立つこともセット化のメリットです。

例えば、嚥下障害を考える時に、食道癌とアカラシアをセットで挙げる癖があれば、座学で勉強したことを基にこれらを鑑別するための問診につなげやすくなります。

まとめ

最後に各ステップと最低限の目標について振り返ります。

ステップ1:病態アプローチとは何かを知る

⇨主訴から鑑別病態を挙げること

ステップ2:病態アプローチの具体的なやり方をマスターする

⇨どのような方法でも良いので病態カテゴリ(鑑別病態)を列挙できるようになる

⇨例えば、VINDICATE P2という病態カテゴリ列挙のためのゴロを覚える、または参考にする。

ステップ3:病態アプローチの具体的な活用法を理解する

⇨局在が乏しい症候の場合、病態アプローチ(症状+病態)をメインで使って鑑別疾患を挙げる

⇨局在がある症候の場合、主訴+解剖+病態で鑑別疾患を考える

⇨病態カテゴリから鑑別疾患を挙げるコツを#5で学ぶ(未)

ステップ4:臓器固有疾患群とは何かを知る

主訴+解剖+病態で鑑別疾患に挙げにくい疾患は臓器固有疾患に分類する

臓器固有疾患は症状+臓器の段階で挙げられるように意識的に覚える必要がある。

ステップ5:鑑別疾患のセット・メリットは何かについて知る

⇨症状が似ているなどある種の枠組みに基づいて鑑別疾患をグループ化したものをセットとする。

セットを多く作っておくと鑑別のバックアップや問診時に役に立つ

最低限の目標が達成できたかどうか振り返ってみてください。

  • 目標1:病態アプローチを使えるようになること
  • 目標2:主訴×解剖×病態アプローチで鑑別疾患まで考えられるようになること
  • 目標3:臓器固有疾患という分類を知ること
  • 目標4:鑑別疾患のセットという考え方・メリットを知ること

次のステップの#5コツ集  では、

  • 太字記載のコツに関しては少なくとも覚える
  • セットの一例を知り参考にする
  • 臓器固有疾患群の考え方のコツを知り参考にする

がメインターゲットです。

今回説明しきれていない病態カテゴリから鑑別疾患を考えていくコツを紹介します。

最後まで読んで頂きありがとうございました。

僕の勉強法が少しでもその参考になり、お役に立てば嬉しいです。

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