神経診察の勉強方法 〜診察項目はMASTIR CAGIで8割前後網羅できる〜 #11

前回の内容はこちら

37症候全てで身体診察をする前に行うこと

 PCC OSCEの身体診察では大まかに神経診察とそうでない診察の2種類です。どちらか一方、または両方を行います。

 どちらの診察をする場合でも、手指消毒をしてから
全身の外観
意識レベル
バイタル
以上3つを最初に述べると良いです。

 全身の外観について、良好、苦悶様、抑うつ様などの表現があります。

 意識レベルについて、意識清明、JCS、GCS評価のどれかで表現します。

 バイタルについて、安定してます、呼吸数が25であること以外は安定してますなどのように表現します

神経診察をするかどうかの判断方法

 神経診察をするのは主に神経症候が主訴の場合です。

 神経症候かどうかの判断は、動きや感覚に関する症候かどうかで行います。

 痙攣、片麻痺、構音障害、嚥下障害などはどれも動きに関係しているので神経症候であり、神経診察を考えます。手足が痺れる場合も感覚に関係しているので神経診察が必要な場合が多いです

Post CC OSCEで使う20種類以上の神経診察の覚え方

 神経診察では脳神経+MASTIR CAGI+特殊診察(神経)を覚えます。

 脳神経は1-12までで必要な診察を行えるようにしておきます(OSCEと同じように診察できれば良いです)。以下で復習も兼ねながら、どんな脳神経診察をいつするか、どう診察するか、よく使う所見の述べ方の4つについて紹介します。

脳神経12個の覚え方(神経解剖の復習)

 脳神経12個は「嗅いで見て動く車の三の外、顔耳喉に迷う副舌」で覚えて、基本的にはこの順で診察していきます。

1:嗅神経
2:視神経
3:動眼神経
4:滑車神経
5:三叉神経
6:外転神経
7;顔面神経
8:聴神経
9:舌咽神経
10:迷走神経
11:副神経
12:舌下神経

1:嗅神経

PCC OSCEでは特に対策は不要です

2:視神経

瞳孔不同・対光反射
いつ:頭部外傷や頭痛、痙攣など
(ざっくりとしたイメージとしては、頭蓋内に血腫や腫瘍など占拠性病変が生じている可能性が否定できす、脳ヘルニアになってないかチェックしたい時)
方法:瞳孔の大きさと左右差の評価、ペンライトを左右の眼に当てて対光反射の有無を評価
所見:瞳孔は3mm/3mmで左右差なし、対光反射は両側あり

視野の評価(あまり使わない)
いつ:下垂体腫瘤や緑内障などで視野欠損の存在を疑う場合
方法:自分と模擬患者の中点あたりで左右のどちらかの手を動かす。この時模擬患者と同じ側の目をつむる(模擬患者が右目をつむったなら自分は左目をつむる)
所見:視野障害はありません/右目の右上部に視野欠損を認めます

3、4、6:動眼神経、滑車神経、外転神経

外眼筋の評価
いつ:複視を生じる疾患が鑑別に挙がる場合(吹き抜け骨折、MG、脳動脈瘤・DMなど)
方法:自分は指を四方向に動かす。模擬患者さんには顔は動かさないようにしてもらいながら自分の指を追視してもらう。複視がないか尋ねることを忘れないこと。
所見:外眼筋運動に異常なく、複視を認めません/左方注視時に複視を認めます/眼振を認めます

5:三叉神経

顔面の感覚の評価
いつ:顔面の感覚異常をきたす疾患が鑑別に挙がる場合(脳卒中など)
方法:額、上顎、下顎の3領域をティッシュで触る。感覚があるか、左右差があるかを聞く
(爪楊枝は痛覚。時間に余裕あれば。尖ってない方を使う。僕はいつも省略した。)
所見:顔面の触覚はあり、左右差を認めません/左上顎の触覚が消失(低下)しています

7;顔面神経

額のしわ寄せ、まつげ徴候、思いっきり笑顔
いつ:中枢性/ 末梢性顔面神経麻痺を鑑別したい時(例えば脳梗塞とベル麻痺の鑑別)
方法:模擬患者上方の自分の指を見てもらい額にシワを寄せてもらう。ギュッと目を瞑ってもらう。思いっきり笑顔(またはイーと言ってもらう)。自分の真似させると良い。
所見:両側しわ寄せ可能で左右差ありません、まつげ徴候陰性、鼻唇溝(ほうれい線)を認めます/左の額のしわ寄せができません、まつげ徴候陽性、鼻唇溝の消失を認めます

 額のしわ寄せで中枢性と末梢性を鑑別できる理由について
 例えば、左の大脳から額のしわ寄せをするように命令を出すと、その命令は末梢神経に伝達されます。四肢などの動きなら反対側の右のみの末梢神経に伝達されますが、額の場合は左の大脳からの命令は左右の末梢神経に伝達されます(右の大脳からの命令も同様)。ここがミソです。
 中枢性の場合、どちらか片側の大脳が障害されますが、健側の大脳が額のしわ寄せするように命令すれば左右の末梢神経に命令が伝達されます。つまり、中枢性なら額のしわ寄せができます。
 末梢性の場合、左右どちらかの末梢神経が障害されているので、額の筋肉に対して最後の命令の伝達をすることができません。つまり、末梢性なら患側の額のしわ寄せができません。

8:聴神経

聴力の評価(あまり使わない)
いつ:メニエールや聴神経腫など難聴をきたす耳疾患を考える場合
方法:指擦りを左右の耳元でして聞こえるかどうか、左右差はないかを確認
所見:両側で聴力低下は認めず、左右差もありません/左の聴力が低下しています。

9、10:舌咽神経、迷走神経

カーテン徴候(あまり使わない)
いつ:脳梗塞など中枢性病変を疑う場合
方法:ペンライトで照らしながら口蓋垂や咽頭後壁が正中から偏移してないか確認
所見:カーテン徴候は陰性です

カーテン徴候の解釈について
 正常な状態では左右の軟口蓋の筋肉が口蓋垂を均等な力で引っ張っているので口蓋垂は正中に存在しますが、脳梗塞などで片側の軟口蓋の筋肉が口蓋垂を引っ張れなくなると口蓋垂は引っ張る力がある健側に偏移する事になります。
 左に口蓋垂が偏移していた場合、左は健側だから口蓋垂を引っ張れているので右が障害されていることになります。右の筋肉が障害されているということは左の大脳が病側と考えることができます(右の場合も同様)

11:副神経

僧帽筋・胸鎖乳突筋の評価(あまり使わない)
いつ:筋力低下を認める場合、中枢性病変を疑う場合
方法:肩をすくめる、横をみるという動作についてMMTで評価
所見:MMTで評価(5は正常、4が少し弱い、3が重力に抵抗できる、2が重力に勝てないが多少動く、1がわずかに動く、0は動かない)

 Post CC OSCEでは基本的に対策は不要だと思いますが、筋力低下があった場合は時間に余裕があればスクリーニング的に評価しても良いかもしれません。

12:舌下神経

舌の運動の評価
いつ:脳梗塞やALSを疑う場合
方法:口を開けてもらう。その後、舌を前に突き出してもらい、さらに左右に動かせるか確認。舌を突き出す前に舌の萎縮・線維束攣縮について意識できると良い
所見:舌の前方突出時に偏移なし(左に偏移あり)、線維束攣縮なし

舌の前方突出時の偏移の解釈について
 舌を前に突き出す時、左半分の舌の筋肉は舌を右前方へ押し出そうとしますが、右半分の舌の筋肉は左前方へ押し出そうとします。この結果、ベクトル的に左右の力が相殺されて、偏移なく前に突き出るという仕組みです。これがポイントです。
 左半分の舌の筋肉が脳梗塞などで麻痺していれば、右半分の舌の筋肉の動きのみで舌を前に突き出そうとするので、舌は左へ偏移します。つまり、舌が左へ偏移するなら、左半分の舌に麻痺があるからと言えます。左の舌に障害があるなら右大脳が病側と考えられます。

脳神経診察全般について公的機関(岐阜大学)が出したものを参考にしたい場合はこちら

神経診察をマスターするカギ(MASTIR CAGI)

 MASTIR CAGIは重要な神経診察の頭文字を並べたものです。これさえ覚えていれば神経診察の8割はバッチリです(個人的な感覚では)。

Motor:運動
Atrophy:萎縮
Sensation:感覚
Tonus:トーヌス
Involuntary movement:不随意運動
Reflex:反射

Cerebellar:小脳
Autonomic:自律神経で起立時に立ちくらみが出るかなど
Gait:歩行
Intelligence:意識障害の有無。TPP=Time,place,personについて正しく答えられるかやMMSEなど

 このゴロを覚えてその中から必要な神経診察を選んでできるようにしておきます。
 個人的には、Motor、Sensation、Involuntary movement、ReflexCerebellarはPost CC OSCEで重要だと思います。それ以外についてはややオーバーワークなので、時間がある場合にやれば良い診察だと思っています。

Motor(運動)、よく使う

 上腕二・三頭筋と下腿四頭筋・ハムストリングスのMMTを評価します。
 MMTは3が重力に逆らって動かせることを軸に考えると覚えやすいです。

5:正常
4:少し弱い
3:重力に逆らって動かせる
2:重力がないなら動かせる
1:腕はほとんど動かないが、筋肉は動いている
0:何も起きない

 GBS(ギランバレー症候群)やMG(重症筋無力症)など筋力低下の評価が必要な場合や脳梗塞など麻痺の程度の評価をする場合に考えます。
 時間がある場合は、手根伸筋・屈筋群や腸腰筋、足の底屈・背屈などについても評価しても良いかもしれません。

Atrophy(萎縮)

 Atrophyは意識して視診しないと基本的には見落とすと思った方が良いです。
 手根管症候群で母指球の萎縮、ALSで筋萎縮だけでなく舌萎縮など考える場合に診察します。
 Post CC OSCE対策としてはオーバーワークかもしれません。

Sensation(感覚)、よく使う

 Sensationは前腕・上腕、下腿についてティッシュで触れて触覚を評価します。触覚があるか、左右差がないかを確認します。
 時間があれば爪楊枝で痛覚の評価を加えても良いと思います。大腿、体幹は時間がある場合は評価すれば良いですが、PCC OSCE対策という意味では不要かと感じました。顔の感覚を調べるかどうかは症例と残り時間と相談して判断します。 
 感覚障害が主訴の場合脳梗塞を疑う場合に診察します。

Tonus(トーヌス)

 Tonusは上腕を曲げ伸ばしして抵抗を評価します。
 下肢など他の部位も余裕があれば考えますが、個人的には上腕だけで十分だと思っています。
 脳梗塞やパーキンソン病などを疑う場合に診察します。

Involuntary movement(不随意運動)、多少使う

 Involuntary movement(不随意運動)は、振戦、ミオクローヌス、アテトーゼなど多種多様ですが、Post CC OSCE対策としては、視診で安静時振戦や企図振戦などの振戦が指摘できれば良いと個人的に思います。
 パーキンソン病や小脳梗塞などで診察を考えます。

Reflex(反射)、よく使う

 Reflex(反射)は、肘・膝・かかとの3つを見ればオスキー対策としては十分だと個人的に考えます。具体的には、上腕二/三頭筋腱反射、膝蓋腱反射、アキレス腱反射の3つです。
 余裕があればその他の反射をとっても良いかもしれません。
 脳卒中や骨転移の脊髄圧迫、GBSなどで診察し、病変の部位診断に役立てます。
 反射が亢進する場合はUMN=Upper Motor Neuron病変(中枢病変)、減弱する場合はLMN=Lower Motro Neuron病変(末梢病変)を考えます。

Cerebellar(小脳)、よく使う

 Cerebellar(小脳)は、僕の真似をしてくださいと言って、キラキラ星(手の回内・回外)をしてもらいます。
 指→鼻⇨指試験や膝→かかと試験も小脳の身体診察ですが、時間がかかるので余裕がある時にすれば良いと思います。
 小脳梗塞や脊髄小脳変性症など小脳病変を疑う場合に診察します。

Autonomic(自律神経)

 Autonomic(自律神経)は、主に起立性低血圧の有無を評価します。MSDマニュアルによると

仰臥位をとらせてから5分後と立位をとらせてから1分後および3分後に血圧および心拍数を測定する

 Post CC OSCEの対策としては、時間をかなり消費してしまう上にメインの診察ではないので、避けても良い診察だと個人的に思います。
 パーキンソン・レビーやMSA=Multiple System Atrophy、出血性ショックなどを考える時に診察します。

Gait(歩行)

 Gait(歩行)は、患者さんに立ってもらって、診察室の端の当たりまで歩いて行って元の場所まで帰ってをやってもらいます。転倒しないように近くで見守るのを忘れないようにしましょう。歩き方を観察して鑑別を考えます。
 歩行も時間がかかる診察なので、PCC OSCEではコスパの良い対策ではないと個人的に考えます。
 パーキンソン病系疾患ならすくみ足や小刻み歩行、小脳系疾患なら失調性歩行などがないか診察します。

Intelligence(意識障害)

 Intelligenceは、GCS・JCSの評価やTPP=Time/Place/Person、計算(100から7を引き続ける)の評価を行います。
 意識障害がある患者さんや意識障害を生じうる疾患が鑑別に挙がる場合に診察します。
 MMSEは覚える必要はないと思います。

神経の特殊診察

 神経の特殊診察はバレー徴候・バビンスキー、項部硬直・Jolt accentuation・ケルニッヒ、ロンベルグなどのことで、人の名前がつくものが多いです。
 脳神経診察でもMASTIR CAGIでもない神経診察は特殊診察に分類して覚えて、必要な診察ができるようにしておきます。
 髄膜刺激徴候はとても重要なので絶対に覚えておくことをお勧めします。

 脳神経+MASTIR CAGIはスクリーニング的性格が強いですが、特殊診察は疾患を疑ってとりに行く必要があり、忘れやすいので練習が必要です。

 髄膜刺激徴候はPost CC OSCEの対策として重要だと思います。頭痛や頭部外傷による出血や感染による炎症などによって髄膜が何らかの刺激にさらされる病態・疾患が少しでも仮定できる場合には診察した方が良いと思います。可能性が低くとも項部硬直を怠って見逃すと命に関わるからです。

 以下、項部硬直の診察方法に関して今日の臨床サポートより抜粋です。

「患者を仰臥位として頭側に回り、両手で頭部を軽くかかえて枕をはずす。まず頭部を左右に回転して抵抗がないことを確認し、頭部を前方に屈曲させる。正常では下顎が前胸部に接するまで前屈できるが、項部硬直では前屈すると後頚部筋の筋緊張が増大し、下顎を前胸部につけることが難しい。項部硬直では頭部の前屈に強い抵抗があるが、左右屈曲では抵抗がない。」

https://clinicalsup.jp/contentlist/853.html

 上記のように、仰臥位での診察となるので診察の順番によっては忘れてしまうことがあります。僕は友達との練習で忘れたことがあります。
 PCC OSCE対策という観点からすると、髄膜刺激症状を疑っている姿勢を見せることが大事なので、髄膜刺激症状を呈し得る疾患が少しでも鑑別に挙がる場合は次に紹介するJolt accentuationから身体診察を始めることをお勧めします(全身の外観、意識レベル、バイタルを述べたら最初にJolt accentuationから始めるという意味です)。臨床でも髄膜刺激症状は忘れないようにしましょう。

 Jolt accentuationは首を左右に早く振って頭が痛くなれば陽性という座位でもできる髄膜刺激徴候に関する診察です。

 仰臥位で行う項部硬直を忘れるリスクがあることを考えると、試験的には座位でできるJolt accentuationを最初に盛り込んでおくことをお勧めします。

 バビンスキーは爪楊枝の持ち手の部分で足底のかかと⇨小指⇨親指の順でなぞって、足の指の反応を見ます。足の指が下を向く(底屈)すれば正常ですが、上を向く(背屈)すれば異常で、UMNに病変があると考えられます。
 脳梗塞などで診察します。

 その他の神経の特殊診察はできた方が良いですが、Post CC OSCE的にはできなくても総合的な診療に問題がなければ合否に影響するようなものではないと考えています。個人的には髄膜刺激徴候を除いてあまり対策はしませんでした。

 まとめとして、神経診察では脳神経+MASTIR CAGI+特殊診察(神経)は最低限覚えた方が良いことだと思います。
 すべき身体診察の項目が分かっていれば、あとは残り時間と優先順位をもとに必要な身体診察を取捨選択して実行していくだけです。完璧を目指す必要はないので、コアカリの項目(6年生の6月頃に配布される冊子に載っている表にある項目)が全て埋まる必要はないと思いますが、8割は埋められるかはチェックした方が良いと考えます。8割埋まるか不安な場合は、すべき身体診察項目を多少は覚えておきましょう。

 次は神経症候ではない場合の身体診察の型を紹介します。すべき身体診察の項目を覚えれば、実践の仕方は上述の神経診察と同じです。

PCC OSCE対策の全体像を再確認する

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