関節痛のアプローチ方法、鑑別・問診・身体診察からメモの取り方・プレゼンまで紹介。要点まとめを読んでない場合は、こちらを読んでから37症候の記事を参考にすることを強くお勧めします
アプローチ
関節痛が課題の時に考えていること
- 痛い系なので鑑別臓器を挙げたいが、鑑別臓器は皮膚・筋骨格(関節)と決まっている
⇨どこの関節か明らかにする
※単関節か多関節か明らかにするのが目的。想定する疾患が異なってくるから - 単関節では、関節固有疾患(OAなど)、細菌感染や結晶系など局在する疾患を連想
- 多関節痛では血液(主に抗体)を介して全身の関節に悪さをしていることが多く、病態から自己免疫疾患を連想
- 鑑別臓器の数が少ないので病態を加えて考える
- 上記の大まかな方針を立てて患者さんを呼び入れる
患者を呼び入れてから時間経過を聞くまでに考えていること
- 自己紹介から詳しく教えてまでを型通りに聞く。メモ用紙に十字を書いて4分割する。
- 時間経過の問診をOPQRSTやOPD〜のうち必要な項目を聞く。必要な項目は、項目+症状で鑑別が挙がるかどうかで判定する。
※痛い系はOPQRSTをルーティンで聞くと考えても良い - ゴロの頭文字をメモに記載。左上にできるだけ医学用語で返答をメモ
症状の有無を聞く時に考えていること
- 鑑別カテゴリを意識しながら症状の有無について問診する
- 症状+臓器+病態の足し算をする前に臓器固有疾患から考える
- 鑑別疾患を挙げながら各臓器の問診セットのうち聞く必要のあると思うものを聞いていく
- 必要に応じて疾患特異的な問診をする
- メモするのはカテゴリと問診項目。症状あれば丸で囲む。
関節痛+固有疾患=OA(変形性関節症)
⇨動かすと痛いか、安静時は痛くないか
※一般に筋骨格系であれば安静時は痛くないことが多い
※OAはRA(関節リウマチ)とセットにしておくと良い。教科書的にある鑑別は重要+OAを忘れた場合にもRAを考えた時にOAをバックアップできるから(逆も然り)
・関節痛+Infection=化膿性関節炎・骨髄炎
⇨発熱、不機嫌
※化膿性関節炎は放置すると関節拘縮し機能予後を著しく低下させるので必ず除外する
※感染の場合、細菌・ウイルス・結核・真菌・寄生虫の可能性を考える。一般に細菌は局在→単関節(化膿性関節炎)、ウイルスは全身→多関節(インフル、パルボ、HIVなど)
※安静時でも感染に伴う炎症による刺激があるので痛い
・関節痛+Immune=SLE・RA
⇨光線過敏、蝶形紅斑、Morning stiffness、レイノー現象
※SLEを疑わない場合、あまり突っ込んで聞く必要なし。疑う場合、SLEの症状を連想して聞く。連想できなければ、HEENT、心・肺、消化管、胆道系、泌尿・生殖器、皮膚筋骨格+SLEで当てはまる症状考える
・関節痛+Endocrine(代謝・栄養、内分泌・電解質)=痛風・偽痛風
⇨発熱、高尿酸の指摘、食生活、痛風になりそうな人か(体型)
※代謝疾患として痛風・偽痛風は重要。痛風と偽痛風はセットにしておく。どちらもCommon
※痛風は親指の付け根に多く、ほとんど男。結晶が析出→関節刺激で痛い。析出するのは四肢で冷えやすくて流れのない所=親指の付け根の関節
既往の問診で考えていること
- 既往の問診を型通り行う
- 型のうちPAM FASは聞くことが多い=PMH、Allergy、Meds、FH、Alcohol、Smoke
PMH=Past Medical History FH=Family History
心配事とまとめで考えていること
- 心配事を聞いた後、メモを見ながらまとめを話す。
- まとめは何を疑っているのか友達に分かるような10秒くらいのプレゼン→心配事を織り混ぜる→身体診察させてくださいという構成を意識する
(関節注射して昨日の夜から右膝が赤く腫れて、痛くて歩けなくなったので今朝娘さんといらっしゃったのですね。熱もあってしんどいと思いますが、病気についてさらに調べるために次は身体診察をさせてください)
身体診察で考えていること
- 手指消毒をする+意識レベル・バイタル・全身状態の3つをまず述べる
- 身体診察は神経診察が必要なものとそうでないものに分けて考える
- 神経診察は不要なので、ルーティンの診察を行う
- 関節は鑑別カテゴリなので必ず行う。炎症の4徴=発赤・腫脹・疼痛・熱感の診察+機能の診察(可動域)
- 自己免疫疾患(主にSLE)を想定して時間が許す限り全身見ておく
- 行うものの一例を太字で示す
Head:圧痛の有無など、蝶形紅斑(SLE)
Eye:瞳孔の大きさ・左右差・対光反射、眼球結膜の貧血・充血・黄染など
Ear:外耳の皮疹、鼓膜の発赤・腫脹など
Nose(Sinus):副鼻腔の圧痛・叩打痛など
Throat:咽頭・扁桃の発赤・腫脹・白苔の付着など、硬口蓋の潰瘍(SLE)
頸部:頸部リンパ節腫脹、甲状腺の腫大・結節・圧痛、JVD(頸静脈怒張)
心臓:心音(I音、II音、収縮期・拡張期雑音、3音、4音)
肺:胸郭・呼吸の様子(呼吸補助筋)、肺音(両側清で左右差なし、Coarse/fine crackle、Wheeze/Rhonchi)、胸部の皮疹
腹部診察:平坦・軟・手術痕、腸蠕動音の亢進・減弱、鼓音・濁音、圧痛・マックバーニー・筋性防御・反跳痛、腫瘤触知、肝脾腫・肝叩打痛・マーフィー
CVA knock pain:CVA knock painの有無
下肢:下腿浮腫・把握痛・発赤、拍動など、レイノー
関節:発赤・腫脹・熱感・疼痛(自発痛、他動痛)、変形、可動域
メモの一例
プレゼンはメモを見ながら行う。
- メモ左上の時間経過に関するプレゼン
⇨一文が長くなり過ぎないように注意。問診がしっかりできていれば、基本的にはOPQRSTを一文が適切な長さになるように読み上げれば大丈夫なはず。 - 臓器別の症状に関するプレゼン
⇨陽性所見所見、除外したい疾患の所見、よくある疾患の所見、その他陰性所見という流れ - 既往に関するプレゼン
⇨読み上げればOK。時間がどうしてもない場合、重要度の低い箇所のプレゼンは省略する。 - 身体診察に関するプレゼン
⇨陽性所見所見、除外したい疾患の所見、よくある疾患の所見、その他陰性所見という流れ - 鑑別疾患に関するプレゼン
⇨一番に疑っている疾患、その主な根拠になる所見3つ程度、他の鑑別とその主な根拠数個、今後の検査・治療
除外したい疾患とは、命に関わる・機能障害を生じるような疾患のことです。
関節痛であれば、機能的な観点から化膿性関節炎は除外したいです。
慣れてきたら、これらを除外するように意識して診療したことをアピールできるプレゼンができると良いと思います。
~痛い系のポイント~
・痛い系は発症様式がメインで重要。OPD系やOPQRSTなど発症様式を聞くためのゴロを使ってしっかりグラフが書けるような病歴をとる。痛い系で発症様式が問診のメインとなるのは、発症の仕方や痛みがゼロになるかなどで危険度の評価や鑑別疾患を絞りやすい症候だから。
・ゴロに加えて関連の問診(食事、運動、姿勢、時間帯など)も適宜使う
・痛い系では原因カテゴリは考えなくて良い。痛い領域近辺の鑑別臓器を挙げるところからスタート。鑑別臓器を挙げたらその臓器の問診セットを使って問診していく。ただし、このやり方では嘔吐や腹痛、下痢・便秘などは聞けるが疾患特異的な質問は抜けるので注意。イレウスで排ガスなど
・症状+臓器+病態のヒントから出すことが難しい臓器固有の疾患は、頑張って覚えておくのがおすすめ。例えば、肺であれば喘息・COPD・気胸など(症状+肺+VINDICATE P2でこれらを出すのは難しい)
・内臓痛と体性痛、関連痛の特徴は押さえておく。これも鑑別を絞るのに有用だから。虫垂炎が全てを内包したとても良い例。
※PCC OSCEのコアカリの表に記載のある項目(鑑別・問診・身体診察)には赤線が引いてあります。載っていない項目については引いてないので覚える必要はありませんが、学習の役に立つかもしれないので参考までに記載しました。
※鑑別疾患は全て挙げられるようにすることをお勧めしますが、問診・身体診察は8割程度の項目が埋まれば良いと個人的に考えます。
#関節痛
@鑑別方法1
・痛い系なので鑑別臓器の列挙から入りたいが、すでに関節と決まっている※。よって関節の固有疾患とVINDICATE P2を使って鑑別を考えていく
・関節固有疾患はOA
・関節痛+病態(VINDICATE P2)を考えて
関節痛+V=ー
関節痛+I=化膿性関節炎・骨髄炎、各種ウイルス性関節炎
関節痛+N=骨腫瘍
関節痛+D=ー
関節痛+I=SLE・RA・パルボ
関節痛+C=ー
関節痛+A=OA・RA
関節痛+T=外傷
関節痛+E=痛風・偽痛風
関節痛+P=ー
関節痛+P=ー
@鑑別方法2
単関節
⇨固有:OA
⇨細菌:化膿性関節炎・骨髄炎
⇨結晶:痛風・偽痛風
多関節
⇨ウイルス:インフル、肝炎ウイルス、パルボなど
⇨自己免疫:SLE・RA
#Tips 鑑別編
※患者さんの言う関節が痛いとは関節があるあたりが痛いのであって関節内が痛いとは限らない。実は関節の近くの筋肉や骨、腱などの構造物が痛いのかもしれない。肩関節や膝関節でこのことを考えるとイメージしやすいかもしれない。関節内の病変か外の病変かを見分けるには関節を全方向に動かすと良い。関節の中に病変があるならどの方向に動こうが痛いが、関節の外に病変があるなら筋肉や骨などに負荷がかかる特定の方向のみ痛いことが多い。身体診察時に役立てる。
・OAは関節固有疾患でRAとセットで鑑別。関節痛が近位か遠位か注意する。
・RA・SLE・パルボはセットにする。大人のパルボはRAの症状によく似ていることがある。
・関節痛で嫌なのは化膿性関節炎。見逃すと関節破壊により永続的な機能損傷が生じる可能性があるから。関節注射はリスク因子。
・Iを考える時は、細菌・ウイルス・結核・真菌・原虫カテゴリを考える。インフルエンザ、肝炎ウイルス、パルボなどウイルスは関節痛の原因になることがある
・痛風と偽痛風はセット。痛風はそのほとんどが男性。偽痛風は女性にやや多いくらい。
・鑑別2について、単関節であれば基本的には局在の強いものであり、細菌が巣くったり、結晶が出ていると考える。多関節であれば血を介して関節に悪さをしているものと考える。ウイルス性のものや自己免疫性のものを考える。細菌はどこかに生着して局在して強い症状を出しがちなのに対して、ウイルスは血を介して全身を巡ってマイルドに様々な症状を出しがちというイメージ。このようなイメージを持った上で鑑別を考えた方が楽な人はこちらで考える。
・肩関節痛が主訴で来たのに肩を動かしても痛がらず可動域制限もない場合は上腹部の関連痛、特にMIによる関連痛を疑う。この確認を怠ってMIを見逃した症例があるらしいので、臨床的には肩関節痛はまずMIの否定から入ること。動かすと痛いのが整形疾患なので動かしても痛くないなら整形疾患の鑑別順位は下がる(Post CC OSCE対策としては不要な知識)
@問診
・詳しく教えてください⇨OPD系をほぼフルで聞く(疑う疾患に応じて適宜省略する)
・具体的にはOnset, Progression, Duration, Constant, Location, Intensity, AA, Assosiated, Similar(Setting, Frequency, Quality,Radiationは不要)を聞く
・関連の問診で、運動や食事との関連について聞く
・Infectionが鑑別病態なので、発熱などを聞く。小児では不機嫌がないか確認。
・化膿性関節炎が鑑別疾患なので、関節注射について聞く
・Immuneが鑑別病態/SLEやRAが鑑別疾患なので、光過敏や皮疹(顔面など)、レイノー現象などについて聞く
・AnatomyでOAが鑑別なので手を酷使するか聞く
・Traumaで外傷がなかったか聞く
・Endocrineで痛風が鑑別なので、健診で痛風が高くなかったかや生活習慣を聞く
・既往はPAM系を聞く。どの症例でもPMH, Allergy, Meds, FH, Alcohol, Smoking, Occupationは最低限聞くと良い。女性の場合、月経・性交歴が必要かどうかは必ず考える(関節痛では基本不要)
・まとめと心配事を聞く。
※多めに書いてある。全て聞くのは時間的に厳しいので赤線を優先・疑う疾患を確かめるために必要な項目を聞く。個人的に赤線の項目が8割以上聞ければ良いと考える。
#Tips 問診編
・重複する問診項目がある。どこかで聞き忘れてもバックアップが取れるようにするため。
・関節のどこが痛いかをまず聞くと良い。鑑別をかなり絞れるから。
@身体診察
・手指消毒をして、意識レベル・外観(顔面の皮疹はここで述べると良い)・バイタル(発熱含む)を簡潔に述べてから診察を始める。
・動作・感覚の症状はないので神経症候ではない⇨一般診察をする。
・関節痛が主訴なので一般診察の前に関節から診察すると良い
・一般診察はSLEを念頭に置きながら全身フルで行う
・時間がない場合は関節の診察とSLEを狙った診察をいくつかできれば良い
・関節の診察は炎症の4徴候を見ることを主軸にする。視診で発赤・腫脹、触診で疼痛(圧痛)・発熱(熱感)を調べる。炎症の結果生じることについても評価する。つまり、視診では変形の有無、触診では可動域(ROM=Range Of Motion)。
・時間があればHeadでSLEを狙って、脱毛を探す
・時間があればEyeでRAの関節外症状で眼球の充血について評価
・Throat(咽頭)でSLEを狙って、口腔潰瘍の有無を調べる(時間がなくても)
・時間があれば頸部リンパ節腫脹の有無の診察
・時間があれば心音・肺音でSLEによる心雑音(リブマンサックス)、RAでfine crackleを調べる
・時間があればループス腎炎による顔面の浮腫(視診)、下腿浮腫(触診)がないか調べる。
・皮膚・筋骨格として、蝶形紅斑、レイノーについて調べる(時間がなくても)
※多めに書いてある。全て行う必要はなく、個人的には赤線項目の8割程度できれば良いと考える。
#Tips 身体診察編
・発熱について、バイタルが書かれた紙がもらえる場合はバイタルを述べれば発熱についても言及していることになる。バイタルが書かれた紙がもらえず体温計が机に置いてあったら体温測定をした方が良いということかもしれない。残り時間を考えながら空気を読む。
・関節のROMは例えば、右の肩関節に可動域制限がある・ないを判断できれば良いと考える。必要な部位(DIP/PIP/MCP関節、肩・肘・膝など)を診察する。左肩関節屈曲 140° のように述べる必要はない(正確なROM測定について)
・関節の診察をする前に手を見せてもらった時点でレイノーはありませんと言えると良いかもしれない。
・レイノー現象については手を見てその有無について述べるようにした。問診もする。
メモ・プレゼンへのリンク貼る
次は神経症状 その1運動麻痺・筋力低下を紹介します。