鑑別疾患の考え方・上げ方 〜暗記量を減らす!カテゴリを使って系統的・網羅的に考える!〜#3

このページの目標

症候を聞いた時、解剖アプローチを使って鑑別臓器が考えられるようになること

目標は以下のステップを押さえると達成できるように紹介していきます。

細かいと感じたところはスルーして太字だけ読んでもらえれば大丈夫です。思考体系が大体理解できれば良いので・・・

前回の内容をおさらいしたい場合はこちら

(まず結論だけ知りたい方はまとめへ)

ステップ1:解剖アプローチとは何かを知る

 解剖アプローチとは、主訴から鑑別臓器を挙げることです。

 例えば、頭痛であれば頭の臓器を考えて、脳・目・鼻(副鼻腔)・喉を鑑別臓器=病気の原因がある臓器として挙げることです。

 症候を聞いた時に、疾患をまず思い浮かべるのではなく、どこの臓器に病変が存在するかを考える練習からするのが僕のおすすめの勉強法です。(鑑別臓器を挙げられるようになってから鑑別疾患に着手すれば良いです)

 頭痛など痛い系の症候やめまい、呼吸困難など病変が特定できると考えられる場合には解剖アプローチをメインで使うことが多いです。

 逆に全身倦怠感のように病気が存在する臓器の特定が難しく、病変に局在がない場合解剖アプローチの有用性は低く、病態アプローチの方をメインで使うと良いです。

ステップ2:解剖アプローチの具体的なやり方をマスターする

 解剖アプローチの具体的な手順を示します。

どのように系統立てて覚えているかを一度知ってしまえば、二回目にはできてしまうくらい簡単です。

ステップ2ー1:大まかなカテゴリを考える

頭・胸・腹+骨盤+四肢という大まかなカテゴリを考えます。

頭の先からつま先に向かって考えるのがおすすめです。)

次はこの大まかなカテゴリをさらに細かくしていきます

ステップ2ー2:頭の臓器カテゴリの細分化

 頭のカテゴリの細分化をするために、HEENTを覚えましょう

Head脳・脊髄)

Eye

Ear

Nose(Sinus=副鼻腔)

Throat

頭頸部の解剖部位を英語で列挙した時の頭文字のことです。

アメリカではよく使われています。日本でもカルテに書いてあることがあります。

頭頸部の鑑別臓器で甲状腺を忘れやすい人ははHEENT2としてThyroid=甲状腺を追加するなど、自分なりにカスタマイズすると使い勝手が良くなっていきます。

ステップ2ー3:胸の臓器カテゴリの細分化

胸は心血管と肺を考えればバッチリです。

 肺という言葉を使うと上気道の疾患を忘れてしまうという人は、肺ではなく上気道・下気道などと自分なりにアレンジしてみてください。

 オスキーでは不要ですが、縦隔やリンパ節なども加えたい人は加えてください。

ステップ2ー4:腹の臓器カテゴリの細分化

 腹は消化管+肝・胆・膵を考えられれば良いです。

 消化管は、(例えば腹痛など消化器症状を考える時など)必要に応じて以下のように食べ物の通り道を考えて、さらに細かく分類して考えます。

  • 食道
  • 胃・十二指腸
  • 小腸;空腸、回腸、虫垂
  • 大腸・肛門

・脾臓はオスキーでは不要ですが、追加したい人は腹=消化管+肝・胆・膵+脾 と覚えておくと良いです。

ステップ2ー5:骨盤の臓器カテゴリの細分化

骨盤は泌尿・生殖器を考えます。

(泌尿器症状を考える時など)必要に応じて以下のように細かく分類して考えます。

泌尿器腎臓、尿管、膀胱、尿道 (尿路をイメージすると良いです)

男性生殖器精巣、精巣上体、精管、前立腺、尿道、陰茎精子が通るルートを考えると良いです)

女性生殖器卵巣、卵管、子宮体部、子宮頸部、腟、外陰部卵子が通るルートを考えると良いです)

女性生殖器2=乳房

 生殖器は性に関するものなので、乳房はここに分類しました。(婦人科で女性器と乳房をセットにしている影響もあります)

 臓器を漏れなく想起できれば良いので、乳房は皮膚だというイメージがある人はそのように分類し直してください

ステップ2ー6:四肢の臓器カテゴリの細分化

四肢は全身の皮膚・筋・骨格・関節を想起できれば良いです。

以上です。

ステップ3:解剖アプローチを使って鑑別臓器を挙げる方法

以下のチャートがゴールとなる思考回路です。解剖アプローチは鑑別臓器をピックアップする部分に相当します。

Post CC OSCE 鑑別疾患の思考回路を示すチャート

解剖アプローチの練習方法(活用方法)について、具体例と説明を交えながら紹介していきます。

例えば、めまいが主訴の場合を考えます。

ステップ3ー1:病変の局在を想定できる主訴かどうか判断する

主訴を聞いたら病変の局在を想定できるかどうかをまず考えます

局在あり解剖アプローチからスタート

局在なし病態アプローチからスタート(病態アプローチは#3で扱います)

めまいは脳や耳など病変の局在を想定できる症候に分類可能なので、解剖アプローチをメインで使います。

全身倦怠感や体重変化などが主訴の場合、原因臓器を想定しにくいため、局在なしと判断します。

(病変に局在があるかどうか、どこに局在があるかについては各論を読むとイメージしやすくなるので、是非各論を参考にしてみてください)

各論を参考にしてみる

ステップ3ー2:解剖アプローチを頭の先からつま先までする

この時コツが2つあります。

  • 解剖アプローチをする時は、頭の先からつま先までいつもと同じ順番全身の臓器を考えること一部のみ取り出して考えない
  • 鑑別臓器を挙げる時は部位と機能の2つに着目すること

2点目に関して、

部位=症状が出ている場所に近い臓器を考えること

機能=臓器の機能異常によって、主訴の症状が出る臓器を考えること

という意味です。

以上2点のコツを意識しながら考えると、

頭=HEENTでは部位や機能的にHead=脳・脊髄、Ear=耳がめまいの原因臓器として挙げられます。

胸では症状が出ている部位とは違いますが、機能的に心血管がめまいの原因と考えられます。(脳に血が送られず立ちくらみすると、患者さんはめまいがしたと話すことがあるから。詳細は各論で)

ここで、コツを無視すると、頭=HEENTのみを考え、胸に属する心血管を漏らしてしまう場合があり、網羅性が下がります

また、心血管を思いだせる時もあればそうでない時もあるという再現性の低さにもつながってしまいます

以上から、解剖アプローチで一部のみ取り出して考えることは危険なのでおすすめしません

残りの腹・骨盤・四肢では部位・機能的に実習後オスキーレベルでは鑑別はありません

以上から、解剖アプローチにより、めまいの鑑別臓器は主に脳・耳・心血管と考えます

ステップ3ー3:挙げられなかった鑑別臓器があれば覚える

めまいと聞いて解剖アプローチをした結果、耳以外に鑑別臓器が挙げられなかったとします。

その場合、解剖アプローチを使って、耳以外にも脳や心血管を鑑別臓器として挙げられるように練習することがまずやると良い勉強法だと思います。

鑑別臓器の挙げ方をどう考えたかについては、各論で症候ごとに詳しく紹介しているので、練習する時に参考にしてみてください。

ステップ3ー4:解剖アプローチにないカテゴリの疾患については病態アプローチで扱う

例えば、コアカリのめまいの鑑別疾患パニック障害や貧血が挙げられていますが、これらはそれぞれ精神疾患、血液疾患と分類できます。

このような解剖アプローチにない疾患カテゴリは#3病態アプローチ で扱うことができるので、解剖アプローチではスルーして良いです。

具体的な解剖アプローチ方法は以上になります。

ステップ4:解剖アプローチを活用した鑑別・問診について

めまいに解剖アプローチして、鑑別臓器が脳、耳、心臓と分かれば、

めまい+耳=BPPV・メニエール

めまい+脳=小脳梗塞

めまい+心血管=SSSなどの不整脈系

・・・・・

という感じで、鑑別疾患をいくつか挙げられてしまいますね。

解剖アプローチをすると鑑別を挙げる時、以下のメリットがあります。

  • メリット1:系統的・網羅的・再現性の高いアプローチが可能
  • メリット2:鑑別疾患を多く挙げやすい
  • メリット3:系統的な問診に繋げやすい

メリット1の具体例としては、上述のめまいの例では心血管由来の疾患を毎回見逃しにくくなるというようなものです。

メリット2については、鑑別疾患を挙げる時、例えばめまいというキーワードのみを頼りに場当たり的に挙げる時よりも多くの疾患を挙げることができます。

メリット3をめまいを例に考えてみると、

耳が鑑別臓器⇨耳鳴り、難聴など耳症状があるか聞く

脳が鑑別臓器⇨頭痛、構音障害、歩行障害など神経症状があるか聞く

心血管が鑑別臓器⇨動悸や胸痛など循環器症状があるか聞く

という感じです。

このように鑑別臓器が挙がれば、その臓器症状を想像して、系統的に問診がしやすくなることも解剖アプローチのメリットです。

臓器症状については、#8臓器・病態の問診セットにまとめてあるので参考にしてみてください。

まとめ

最後に各ステップと最低限の目標について振り返ります。

ステップ1:解剖アプローチとは何かを知る

主訴から鑑別臓器を挙げること

ステップ2:解剖アプローチの具体的なやり方をマスターする

頭・胸・腹、骨盤、四肢からスタートし細分化する。

・頭=HEENT

・胸=心血管・肺

・腹=消化管+肝・胆・膵

・骨盤=泌尿・生殖器(腎臓、男性器、女性器、乳房)

・四肢=皮膚・筋・骨格・関節

ステップ3:解剖アプローチを使って鑑別臓器を考えられるようになる

⇨細分化された臓器カテゴリから主訴に関係のある臓器(=鑑別臓器)を考える

ステップ4:解剖アプローチによる鑑別・問診

鑑別は症状+臓器で系統的・網羅的・再現性の高いアプローチが可能

問診は鑑別臓器臓器症状を聞くで系統的な問診ができる

最低限の目標は「症候を聞いた時、解剖アプローチを使って鑑別臓器が考えられるようになる」でした

次のステップの#4病態アプローチでは、

  • 病態アプローチを使えるようになること
  • 主訴×解剖×病態アプローチで鑑別疾患まで考えられるようになること
  • 臓器固有疾患という分類を知ること
  • 鑑別疾患のセットという考え方を知ること

がメインターゲットです。

最後まで読んで頂きありがとうございました。

僕の勉強法が少しでもその参考になり、お役に立てば嬉しいです。

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