前回の内容のおさらいはここです
問診項目を知りたい場合、目次から飛んでください。
症状の有無の問診とは
症候を聞いたら鑑別臓器または鑑別病態を挙げます。問診は鑑別に挙がる臓器・病態の症状を聞けば良いです。
例えば、呼吸困難であれば、心臓、肺、血液が鑑別臓器に挙がるので以下のように問診を考えます
心臓症状(循環器症状):胸痛、動悸、失神、浮腫など
肺症状(呼吸器症状):咳・痰、血痰・喀血など
血液症状:全身倦怠感、易疲労感など
このように症状の有無の問診をするためには、臓器ごとの症状や病態で見られる症状の問診項目を知っておくと良いので、以下に紹介していきます。
臓器、病態の順に問診セットを紹介します。基本は項目のみの紹介ですが、注意が必要なところにはコメントが入っています。
臓器ごとの問診セット
頭・胸・腹・骨盤+四肢+全身の順に紹介します。問診項目は全て覚える必要はなく、1度目を通すことで問診項目を整理し、より多くの問診項目を思い出しやすくすることが目的です。
体外に液体・液体状のものが出た場合、必要ならABCDを聞いてください。全体を通してのコツです。例えば、吐瀉物、痰、血痰・喀血、吐血、下痢、下血、尿、性器からの分泌物などは液体・液体状のものと考えます。この考え方を使うときはABCDと表記します。
A:Amount=どのくらいの量が出たか
B:Blood=血が混じっていなかったか
C:Color=どんな色だったか
D:oDor=どんな臭いだったか
他に亢進症状・減弱症状をセットで考えたり、部位別の機能を考えながら自分が聞ける問診項目を増やしていけると良いと思います。
足りない部分もあるかと思うので、その場合は自分でセットに加えるなどして参考までに使って頂けると幸いです。
頭頸部
頭頸部の臓器はHEENT2というゴロ合わせで覚えます。この順に紹介します。
Head=脳神経セット
大脳:頭痛・外傷、痙攣、しびれ、麻痺、物忘れ
基底核:振戦、失調、
小脳:構音障害、めまい・嘔吐、眼振
- 頭痛、めまい、嘔吐はあるか(CMでよく聞くフレーズなのでセットにした)
- 転んで頭を打っていないか
- 痙攣していたか、痙攣したことはあるか
- ビリビリ痺れるところはあるか、力が入りにくいところはあるか、喋りにくい・歩きにくいはないか(つまり、しびれ=感覚、運動障害があるか)
- 忘れっぽくないか
- 手が震えることはあるか
- 歩いていてふらつくことはあるか
- 呂律は回るか
Eye=眼科セット
眼痛、充血、分泌物、視力低下、羞明、視野障害、複視
- 眼は痛いか、充血してないか、分泌物はあるか(目やに含む)
- 視力低下はないか、逆に光を眩しく感じないか
- よくぶつかるか、見えない部分があるか=視野障害、物が二重に見えるか=複視はあるか
Ear=耳セット
外耳:耳痛、分泌物
前庭:めまい
蝸牛:耳鳴り、難聴
- 耳は痛いか、分泌物は出るか
- めまいはあるか
- 耳鳴りや難聴はあるか
Nose/Sinus=鼻/副鼻腔セット
鼻閉感、鼻汁、鼻血、副鼻腔炎
- 鼻づまり、鼻水、鼻血はあるか(ABCD)
- 前かがみで頭痛が増悪するか
Throat/Neck=咽喉頭
咽頭痛、嚥下痛、嚥下障害、嗄声、出血傾向
- 喉は痛いか、飲み込む時に痛みはあるか
- 飲み込みにくさはあるか、飲み込む時か飲み込んでからか、固形か液体か
- 声に変化はあるか
- 歯茎から出血することはあるか
Thyroid系/Neck=頸部
頸部痛、甲状腺腫大、リンパ節腫脹
- 頸を動かすと痛いか、触られると痛いか
- 頸にしこりはあるか
胸部
胸部は心臓と肺を紹介します。
循環器セット
胸痛、動悸、呼吸困難、めまい、浮腫、失神、起坐呼吸・尿量
- 胸は痛いか
- 症状は労作中、労作後、安静時のどれか(いつ症状が出るのか)
- 動悸、息切れ、めまいはあるか
- 顔や手足がむくむことはあるか
- 気を失ったか、失ったことがあるか
- 横になっていると息苦しくなることはあるか
- 尿量はどうか (心不全では尿量がかなり重要なので連想)
呼吸器セット
咳、痰、血痰、喀血、呼吸困難、喘鳴
- 咳・痰はあるか
- 痰に血は混じっていないか、咳と一緒に血は出ないか(ABCD)
- 息苦しくないか、指や唇が紫になるか
- 呼吸するときにゼイゼイする音はするか
腹部
腹部は消化管+肝・胆・膵・脾の順に紹介します。
消化器セット
・消化器症状は上から下に症状を考えていくと1回で多くの症状を覚えるコツです
消化管:嘔気・嘔吐、吐血、嚥下障害、胸焼け、腹痛、下痢、便秘、脂肪便、黒色便、血便、排便痛
肝・胆・膵:黄疸、色素尿
- 吐き気はあるか、吐いていないか、吐いたなら血は混ざっていたか (口、ABCD)
- 飲み込みにくくないか、飲み込みにくいなら固形か液体か (食道)
- 胃のむかつきはあるか (胃)
- 腹痛はあるか⇨食事と関係はあるか (胃・十二指腸、小腸)
- 下痢・便秘はあるか (小腸、大腸)
- お腹が張っている感じはあるか、できものはないか (腹部全体)
- 排便状況はどうか (肛門、ABCD)
- 排便する時痛いか (肛門)
- 便の色はどうか (血便、白色便、黒色便。赤い、白い、黒い?)(肛門後、ABCD)
- 目や皮膚は黄色くないか (消化管の次に考える肝胆膵の肝臓のイメージ)
- 症状は食事と関係あるか (胆嚢のイメージ(胆石))
- 尿の色が濃くないか (胆道系で閉塞⇨ビリルビン尿、ABCD)
嘔気と嘔吐は区別して問診できると良いです。嘔気があって嘔吐があるのか、嘔気なしに嘔吐してしまうのかで考える鑑別が異なるからです。嘔気なしで嘔吐する場合、脳圧亢進による嘔吐を考えます。
骨盤
骨盤は泌尿・生殖器の順に紹介します。
泌尿器セット
腰背部痛、排尿痛、排尿障害、蓄尿障害、尿量・血尿、ビリルビン尿、タンパク尿
- 腰や背中は痛くないか
- 尿を出すときに痛くないか
- 排尿障害:排尿開始遅延、尿線狭小化、尿線途絶、腹圧排尿、排尿終了遅延、残尿感
- 蓄尿障害:頻尿、夜間頻尿、尿意切迫、失禁
- 尿の回数・量、尿の色に変化はないか(ABCD)
- 尿は泡立ちやすくないか
生殖器セット(男性)
陰部痛、鼠径痛、分泌物、陰部潰瘍、ED
- 陰部や陰嚢、鼠径部は痛くも痒くもないか
- 陰部から分泌物は出るか
- 潰瘍など皮膚症状はないか
- EDになっていないか、寝ている時にErectionはあるか、特定の相手のみEDか
生殖器セット(女性)
陰部痛、鼠径痛、分泌物、陰部潰瘍、性交痛、月経異常、不正性器出血、妊娠の可能性、更年期
- 陰部や陰嚢、鼠径部は痛くも痒くもないか
- 陰部から分泌物は出るか
- 潰瘍など皮膚症状はないか
- 性交時に痛みはあるか
- LMPセット(主に月経について、婦人科の既往のゴロ=LMPを使う)
- 妊娠の可能性はあるか(性交渉と最終月経はいつか)、つわり・むくみはあるか
- ホットフラッシュはあるか
生殖器2(乳房)セット
婦人科で女性器と乳房をセットで扱うことが多いので、このように分類してあります。しっくり来ない場合は別のカテゴリで分類してください。
乳房の痛み、乳汁分泌、腫瘤
- 乳房が痛いか、分泌物は出ているか、血は混ざってないか(ABCD)
- 乳房にしこりはあるか、皮膚に変化はあるか
四肢
四肢は皮膚・筋骨格の順番で紹介します。
皮膚科セット
皮疹、出血斑、黄疸、皮膚掻痒感
- 皮疹・粘膜疹(赤)、出血斑(青)、黄疸(黄)、黒子の変化(黒)はあるか
- 皮膚は痛くも痒くもないか
- 爪や髪の毛に変化はないか
整形外科セット
頸痛、肩痛、腰痛、労作時疼痛、感覚麻痺、運動麻痺、筋力低下
- 頸や肩、腰で痛いところはあるか
- 動くと痛みは増えるか+安静で痛みが和らぐか
- 感覚が鈍くなったり、体が動かない所はあるか
- 力が出ず以前できていたことができなくなってないか
全身セット
全身症状はVINDICATE P2の感染、腫瘍・血液、精神をイメージしながら考えると覚えやすいです
感染:発熱、不機嫌(小児)、見当識(大人)
腫瘍・血液:健診、食欲低下、体重減少・増加、全身倦怠感、リンパ節腫脹、盗汗
精神:抑うつ、不眠、記憶障害、見当識
- 熱はあるか
- 機嫌はどうか(小児)、見当識(TPP=Time, Place. Personの確認。大人)
- 健診には行っているか、最後はいつか、どんな結果だったか
- 食欲はあるか
- 体重変化はあるか、あればどれだけの期間でどのくらい変化したか、意図的か
- だるいかんじはあるか
- 頸や脇、股のあたりのリンパ節は腫れていないか(しこりのようなものを触れないか)
- 夜寝ている時に服を着替えなければならないほど寝汗をかくか
- 気分が落ち込んだり、興味が持てないことはないか
- 夜寝れないことはあるか、寝付けない・途中で何度も起きる・早朝に起きてしまうのどれか
- 桜、ねこ、電車を覚えておいてください。後で聞きます。
病態ごとの問診セット
VINDICATE P2の順に紹介していきます。
Vascular(心血管)セット
循環器セットと同じ
Infection(感染)セット
HIS TOP Feverというゴロを覚えて、必要なものを選んで使っています。
House:居住環境
Ill contact:周囲に同じような症状の人はいるか
Sex:性交渉
Travel:旅行歴・温泉
Occupation:職業
Pet:ペット(動物との接触)
Food:食事
その他にも以下のことを考えます。
- ここ数ヶ月に入院したか
- DM、ステロイドなど免疫抑制状態か
- 熱型はどうか
- 先行感染はあったか(前庭神経炎、PSGNなど)
Neoplasm(腫瘍・血液)セット
腫瘍:健診、易疲労感、全身倦怠感、便の色
血液:リンパ節腫脹、出血傾向
- 健診に行っているか、いつ行ったか、どんな結果だったか
- 疲れやすかったり、だるくはないか
- 便の色が赤い、黒い、白いということはないか
- 首や脇、またの付け根のリンパ節が腫れることはあるか
- 歯茎からの出血や鼻血、あざが出ることがよくあるか
Drug(薬剤性・中毒・依存・離脱)
内服歴、違法薬物、現場の状況
- 薬は何を飲んでいるか、ここ数ヶ月で変更はあったか
- 違法薬物は使っているか、最後に使ったのはいつか、どれくらいの頻度で使ったか
- 症状が出た時の場所はどのような状況だったか
Immune(免アレ血管炎)
皮膚:皮疹(蝶形紅斑含む)、レイノー現象、光線過敏
筋肉:筋痛、筋力低下、運動・感覚障害
骨格・関節:関節痛(Morning stiffness含む)
その他上から順に考える:眼痛・眼の充血・乾燥、口腔内潰瘍、齲歯、吸気時胸痛、呼吸困難、下痢・血便、血尿など
- 体に赤いぶつぶつはできてないか、痛くも痒くもないか、顔にはできてなかったか
- 寒い時などに手足が白、紫、赤と変化することはあったか
- 日焼けしやすいか
- 筋肉が痛いか、以前にできていたことが筋力が落ちてできないことはあるか、感覚が鈍くなったり、手足が思うように動かないことはあるか
- 関節が痛いか、朝にこわばるかんじがあるか、どれくらい続くか
Congenital(先天性)
特になし
Anatomy
四肢に同じ
Trauma(外傷)
外傷の状況、外傷部位、意識消失の有無、見当識、外傷の理由、外傷の既往
- 外傷が起きた状況について詳しく聞く
- どこをぶつけたのか聞く(四肢以外=頭、胸、腹、骨盤をぶつけてないか注意)
- 外傷前後で意識を失っていないか、どれくらい意識を失っていたか、意識を失ったなら痙攣していたのか
- 見当識障害はあるか(TPP=Time, Place, Personを確認)
- なぜ怪我したのか(実は内科的疾患が原因で外傷したかもしれない)
- (慢性硬膜下血腫など考える場合、)ここ数ヶ月で頭をぶつけた覚えはないか
Endocrine(代謝栄養・内分泌電解質)
症状が多岐に渡るので、疾患を想定しながら聞きます。
Post CC OSCE頻出の甲状腺機能異常、糖尿病に絞って紹介します。
甲状腺亢進セット
特異的:暑がり、眼球突出
全身:食欲増加、体重減少、不安
脳神経:振戦
甲状腺:頸部痛
心臓:動悸、下腿浮腫
消化管:下痢
- 周りの人は暑がってないのに自分だけ暑く感じていることはあるか
- 顔が変わったと言われるか、前より目が出ているような印象はないか
- 手が震えることはあるか
- 喉の痛みはあるか(亜急性甲状腺炎)
甲状腺機能亢進でも下腿に浮腫がみられることがあります。
甲状腺低下セット
特異的:寒がり、眉尻の脱落、声の変化
全身:食欲低下、体重増加、抑うつ、認知症
甲状腺:頸部痛
心臓:徐脈、下腿浮腫
消化管:便秘
生殖器:月経異常
- 周りの人は寒がっていないのに自分だけ寒く感じることはあるか
DMセット
狙い撃ち:口渇・多飲・多尿
全身症状:食欲、体重変化、倦怠感
- 喉が異常に渇くことはあるか、水をどれくらい飲むか、尿量・回数はどうか
その他に以下の問診を考えます(普段の生活、血糖の高低、しめじ、血管リスク)
- 薬は何を使っているか、しっかり飲めているか、インスリン注射なら誰がどのように使っているか
- 血糖をモニターしているか、しているなら血糖値の平均と最大値・最小値(血糖)
- 低血糖症状は出ていないか(嘔気、頻脈、冷汗)
- 高血糖症状は出ていないか(腹痛、吐き気、頻呼吸)
- 神経で手足にしびれはあるか、暗いところでバランスを失うことがあるか
- 眼科セット(視力障害、複視、かすんで見える)、眼科に通っているか
- 腎臓セット(尿の性状・量・回数、浮腫、高血圧)
- 心血管セット(胸痛、浮腫、動悸、呼吸困難、めまい、失神)
- 立ち上がる時にふらつくか、排便に変化はあるか(Diabetic dysautonomia)
Psych(精神)
ダウン系、アップ系、3大欲求系で分けて考える。
ダウン系:抑うつ、興味などうつ病エピソード
アップ系:活動性増加など躁病エピソード、幻覚・幻聴
3大欲求:食欲、睡眠、性活動
- 気分が落ち込んだり、楽しめなくなっていないか (鬱のイメージ。両方No⇨鬱は否定的)
- 気分が高まって大きな買い物をしたり、不特定多数と性的関係を持ったりしてないか
- 周りがのろまに思えたことはあったか
- ないはずのものが見えたり、聞こえたりはないか
- 食欲はどうか⇨自分の体型についてどう思っているか(ボディイメージ)
- 夜は眠れているか、寝付けない・途中で何度も起きる・早朝に起きてしまうのどれか
Pregnancy(産婦人科)
生殖器・婦人科のLMPのゴロから必要なものを使う
次は既往の型をゴロを使って覚えます。