一般診察の対策方法 〜ルーティンで診察する項目・よく使う身体所見をメインで紹介〜 #12

37症候全てで身体診察をする前に行うこと

 PCC OSCEの身体診察では大まかに神経診察とそうでない診察の2種類です。どちらか一方、または両方を行います。

 どちらの診察をする場合でも、手指消毒をしてから
全身の外観
意識レベル
バイタル
以上3つを最初に述べると良いです。

 全身の外観について、良好、苦悶様、抑うつ様などの表現があります。

 意識レベルについて、意識清明、JCS、GCS評価のどれかで表現します。

 バイタルについて、安定してます、呼吸数が25であること以外は安定してますなどのように表現します

一般診察をいつするか

 一般診察をするのは神経症候ではない主訴の場合です。

 神経症候かどうかの判断は動きや感覚に関する症候かどうかで行います。
 痙攣、片麻痺、構音障害、嚥下障害などはどれも動きに関係しているので神経診察が必要な場合が多いです。手足が痺れる場合も感覚に関係しているので神経診察が必要な場合が多いです。

 蛇足ですが、神経症候ではない主訴は具体的に全身症状系、痛い系、呼吸・循環症状系、消化器症状系、その他マイナー症候です。

一般診察はどのように行うか

 一般診察は頭の先からつま先まで、頭・胸・腹・骨盤・四肢の順番に考えていきます。

頭部でよく使う身体診察と所見

 頭はHEENT=Head/ Eye/ Ear/ Nose/ Throat・Thyroidを考えます。 

 Headの診察は圧痛がないかを確認します。頭部外傷や痙攣・失神などで診察します。

 Eyeは眼球結膜の貧血・黄染・充血の有無を確認します。時間がかからないのでルーティンでやっても良いと思います。腫瘍・血液や潰瘍など失血や血液疾患により貧血が想定される場合や肝・胆・膵・脾疾患や溶血疾患で黄疸が想定される場合、結膜炎など眼疾患により充血が想定される場合に診察します。

 Earは外耳道の皮疹、外耳を引っ張って痛いか、耳鏡を使って鼓膜の発赤・腫脹など確認します。小児の中耳炎などで診察します。逆に中耳炎以外ではあまり使わない診察なので、PCC OSCEの対策順位としては、少し下になるかと個人的に思います。

 Nose(Sinus)は副鼻腔の圧痛と叩打痛を確認します。副鼻腔炎を疑う場合に診察します。鼻鏡で鼻の中を見る診察もありますが、個人的には副鼻腔炎の症例でない限り合否を分けるような診察ではないと思います(できるならもちろん診察した方が良いですが・・)

 Throatは口腔内の観察をします。感染カテゴリを疑う場合は、扁桃・咽頭の発赤・腫大・白苔の付着、コプリック斑をメインで診察します。免アレ血管炎カテゴリを疑う場合は、口腔内潰瘍や齲歯などメインで診察します。脱水がある場合は口腔内の乾燥度合いを舌を見ながら評価します。診察自体は同じようなものですが、意識と視線でとれる所見量が大きく変わるのでできるだけ多くの所見を見る癖をつけると良いと思います。ルーティンでやっても良いと思います。

 Thyroidは甲状腺だけでなく頸部の診察というイメージです。頸部リンパ節と甲状腺の視診・触診をします。甲状腺の視診では目を横から見て突出の有無も評価すると良いです。頸部リンパ節も甲状腺も腫大、結節、大きさ、可動性、圧痛、硬さなどを評価します。感染、腫瘍・血液疾患、薬剤生、免アレ血管炎、内分泌カテゴリを考える場合は診察します。甲状腺・頸部リンパ節はルーティンでやっても良いと思います。

胸部でよく使う身体診察と所見

 胸では心臓・肺を考えます。

 心臓では心音以外に3つの首を意識します。首は頸静脈怒張、手首(手掌)で冷汗・CRT、足首(下腿)で下腿浮腫・足背動脈の触知です(少し無理やりな感じは否めませんが・・・)。下腿は診察部位が下に移れば想起されますが、頸静脈怒張や手はここで診察するかを考えないとスルーされがちなので注意が必要です。心筋梗塞や心不全を疑う場合には診察します。診察できなくても合否には影響しないのでルーティンレベルではないと思います。

 心音はI/II音、収縮期・拡張期雑音、3音・4音について評価します。汎収縮期雑音や駆出性雑音などと区別できると良いですが、そこまでのレベルは不要で収縮期か拡張期か区別できれば合格には十分と個人的に思います。視診で心尖拍動や触診でスリルなどは余裕があればやれば良く、基本的には不要と考えました。心筋梗塞・PE・解離、心不全、弁膜症など心臓の病気が疑われる場合は基本的に診察します。ほぼルーティンです。

 では肺音で雑音があるか、あれば吸気か呼気かに着目します。吸気の雑音であればCoarse/fine crackleのどちらかを判断します。Coarseはストロー(細気管支)を吸う(吸気)時に液体(分泌物)が少し混ざっているとゴロゴロと音が鳴るイメージの雑音です。代表的なものに肺炎や肺水腫などがあります。Fineはマジックテープ(線維化した肺)を広げる(吸気)時にバリバリと剥がれる音がするイメージの雑音です。代表的なものに間質性肺炎などがあります。背側下部の肺が線維化しやすいので、吸気終了時(一番肺が広げられた時)に背側下部で聴取しやすくなります。両側清でも左右差がないか注意します。皮疹や胸郭などは時間があれば述べても良いと思います。肺音はほぼルーティンです。

 PCC OSCE的には心音・肺音ともに服を脱いでもらってから診察すること・聴診器を温めること(腹部聴診でも同様)が重要です。女性の模擬患者さんの場合でも脱いでもらいます。「心臓や肺の音を聞くので服を脱いでもらっても良いですか?」と言い1枚服を脱いでもらったら、服の上から診察すれば良いです(さすがに男性のように上裸で診察はできないので)。

腹部でよく使う身体診察と所見

 腹部では視聴打触の順番に診察します。腹部疾患が鑑別に挙がる時に行います。タオルをかけること、膝を立ててもらうこと、痛い場所の確認の3つを忘れないようにしました。視診では平坦か、手術痕・皮疹がないかを意識します。手術痕の有無を述べた後にイレウスを疑って排ガスを聞けていなければ忘れずに聞きます。聴診は時間がなかったらスキップしますが、腸蠕動音が亢進・減弱しているかを確認します。聴診より先に触診すると腸の動きが変わって亢進・減弱の評価が難しくなるため触診よりも聴診が先というようにイメージしておきます。打診では鼓音か濁音かを判断しますが時間がなければスキップしても良いです。打診をして響く感じがあれば腹膜炎の可能性も視野に入れます。触診では、腹部を9領域に分けて痛い場所は最後に触ります。1回目は浅く、2回目は深く触診し、圧痛や腫瘤触知の有無を調べます。筋性防御(腹筋に力が入って硬くなっているか)、反跳痛も調べます。その後、肝脾腫・マーフィーを調べます。余裕があれば季肋部に叩打痛があるかも調べます。聴診や打診、特殊診察は残り時間に応じて省略することがありますが、基本的にルーティンです。

 DRE(直腸診)は下血がある・疑われる場合や前立腺病変が想定される場合に行います。直腸・前立腺に腫瘤を触れたり、手袋に血液が付着するなど証拠を揃えたり、鑑別を絞るために有用です。機構からのビデオを見るとDREの模型を使って診察するシーンがあったので、必要な場合は模型が置いてあるのだと思います。

骨盤・四肢でよく使う身体診察と所見

 骨盤では泌尿・生殖器なので、CVA knock painやDRE、婦人科診察を考えます。CVA knock painは結石・腎盂腎炎などで診察します。基本的にルーティンです。DREは前立腺に病変が疑われる場合に行います。腹部診察でDREを忘れても泌尿・生殖器でバックアップできることが多いです。婦人科診察はおそらく不要だったと思いますが配布資料を確認中です。

 四肢では下腿浮腫・拍動・CRTを考えます。浮腫があればpitting/ non-pittingのどちらか区別しましょう。pitting edemaは水を含んだスポンジが押された後、ゆっくり水を吸収し直しながら元に戻るようなイメージで心不全などが代表的です。一方non-pitting edemaは消しゴムを押すようなイメージで甲状腺機能異常が代表的です。ムチンなど比較的硬めの物質が代謝されずに下腿に蓄積されるため下腿を押してもあまり変化が見られません。左右差の有無も重要です(DVTなど)。足背動脈の拍動は閉塞性動脈硬化症や血管リスクを評価するときに考えます。CRTはショック・脱水状態など循環に問題がありそうな場合は評価します。拍動もCRTもスキップ可能です。下腿浮腫は基本的にはルーティンです。

ルーティン診察と個別に覚える診察について

 ルーティン診察をまとめると、目、口、頸部(リンパ節・甲状腺)、心・肺音、腹部診察、下腿浮腫です。この中から必要なものを取捨選択し、症例ごとにルーティンではないが必要な診察を追加するようなイメージです。ルーティン診察をしていれば大きく外す事はないと思います。

 特殊診察は神経診察でも、上述の一般診察にも分類されない診察のことで、側頭動脈の触診、皮疹の診察、関節の診察、腹水の診察、SLRテストなどです。特定の疾患を狙ってする診察であることが多いです。全てを書く事はできないので、個人的に重要だと思う順に紹介します。

 関節の診察は指の変形、炎症の4徴(発熱・発赤・腫脹・疼痛)を調べます。炎症の4徴について見るだけでなく、触ることが重要です。炎症性か否かと遠位・近位関節のどちらかなどの情報から鑑別に役立てます。疼痛は自発痛と圧痛に分けます。免アレ血管炎カテゴリを疑う場合、指の関節は最低限診察します。関節痛の場合は左右差に注意しながら診察します(左膝が痛いなら右膝と比べながら診察)。ROM(可動域)はスキップしても良いと思います。

 肝硬変系疾患の診察は、クモ状血管腫、羽ばたき振戦、腹水、腹壁静脈の怒張などをマークします。全て診察する必要はないと思いますが、どれかはできると良いと思います。クモ状血管腫は手掌や体幹などにないか探します。イギリスでは「手を見せてください」から身体診察を始めるので、それをルーティンに取り入れるとクモ状血管腫もルーティン化できます。羽ばたき振戦は日本救急医学会によると、

手関節を背屈させたまま手指と上肢を伸展させ,その姿勢を保持するように指示すると,「手関節及び中指関節が急激に掌屈し,同時に,元の位置に戻そうとして背屈する運動」が認められる。手関節や手指が速くゆれ,羽ばたいているようにみえるので,このように呼ばれる

https://www.jaam.jp/dictionary/dictionary/word/0804.html

 つまり、腕を伸ばして壁を押すような姿勢を維持してもらうと羽ばたくように震えだすかを見れば良いということになります

 腹水は2つ診察方法があり、意味が分かると忘れないので好みのものを1つやれば良いと思います。個人的には波動触知が簡単なのでおすすめです。患者さんに自分の臍にチョップするような形で正中に手を置いてじっとしていてもらいます。検者は片側(例えば左)の側腹部に手を当てて、反対側(右)の側腹部を軽く叩きます。腹水があると叩かれた衝撃で生じた腹水の波が手を当てている側(左)に伝わり波動を触知します。腹水がなくても(特にふくよかな方だと)、脂肪が揺れて波動と勘違いしてしまう事があるので、患者さんの手を正中に置いて偽陽性を防いでいます。Shifting dullnessは打診で腹水があると、濁音(dullness)を呈する場所が変わる(shifting)のでこの名前があります。絵を見ると直感的に理解しやすいので参考にしてみてください。

https://quizlet.com/106037240/abdomen-special-tests-flash-cards/より引用

 皮疹の診察では部位、大きさ、皮疹の種類は最低限話すようにしました。皮疹の種類では、赤くて平坦なら紅斑、(色に関係なく)隆起があり小さいなら丘疹、大きいなら結節と覚えておきました(水疱、白斑、色素斑などは見れば言えると思うので)。硝子圧で紅斑と紫斑を鑑別する必要は個人的にないと思います。硝子圧で調べる必要はありますがなどと前置きを入れて、ITPを疑う場合は紫斑、そうでない場合は紅斑などと所見を述べてしまって良いかと思います。

 側頭動脈の診察は側頭部に索上に触れる構造物があるか、圧痛はあるか、視力に問題はないかを注意すれば良いです。側頭動脈炎を疑った場合に診察します。

 ヘルニアの場合にはSLRテストをやります。仰臥位になってもらい足を伸ばしたまま検者が持ち上げて痛いなら陽性でヘルニアがある可能性が高いです。FNSはしなくても良いです。

まとめ

・ルーティンの一般診察を型としてできるようにすること

・一般診察でも特殊診察でも頭の先からつま先まで考えてどんな身体診察をすれば良いか列挙できるようにすること+必要な時に追加でそれらを診察できるようにすること

が達成目標になります。

次回はプレゼン報告の型について紹介します。

プレゼンの型を作るために必要なメモの型も詳しく紹介しています。

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