胸痛のアプローチ方法、鑑別・問診・身体診察からメモの取り方・プレゼンまで紹介。要点まとめを読んでない場合は、こちらを読んでから37症候の記事を参考にすることを強くお勧めします。
アプローチ
胸痛が課題の時に考えていること
- 痛い系なので鑑別臓器を挙げる
- 胸部をイメージして、鑑別臓器として心臓、肺、食道・胃を考える。
- 鑑別臓器の数が少ないので、病態を考慮して鑑別疾患を増やす。鑑別疾患が最も多く考えられそうな心臓をメインに鑑別病態を考える。
- 上記の大まかな方針を立てて患者さんを呼び入れる
患者を呼び入れてから時間経過を聞くまでに考えていること
- 自己紹介から詳しく教えてまでを型通りに聞く。メモ用紙に十字を書いて4分割する。
- 時間経過の問診をOPQRSTやOPD〜のうち必要な項目を聞く。必要な項目は、項目+症状で鑑別が挙がるかどうかで判定する。突然+胸痛なら心筋梗塞が鑑別⇨Onsetは聞くという感じ
※痛い系はOPQRSTをルーティンで聞くと考えても良い - ゴロの頭文字をメモに記載。左上にできるだけ医学用語で返答をメモ
#Advanced Tips(読み飛ばし可)
・軸となる疾患について深く知っておくと時間経過に関する問診がしやすい。胸痛の場合、ACSらしい病歴か、らしくない病歴かを集めることを意識すると良い
⇨ACSらしさのある病歴について勉強
・ある瞬間を境に痛い、数分以内に痛みがピーク→突然は詰まる・捻れる・破れる系の疾患。
・数日前から→急性は感染が多い
・数週・数ヶ月前から繰り返している→慢性の原因は急性・突然以外の病態である場合が多い
⇨Onsetを聞いて鑑別
・不安定狭心症の程度・頻度が増悪してるかも
⇨Progression確認
・胸痛が30分程度続いた場合、心筋梗塞らしさがある。それ以上続く場合や数分以内の場合は、不安定狭心症や心因性などの他疾患らしさがある
⇨Duration確認
・集中している時は痛みが0になる→心因性っぽい
⇨Constantか確認
・何をしていた瞬間に痛かったかを言えれば突然らしさがある、何をしていたかで想定する疾患が変わる場合がある(ヨーロッパからの飛行機から降りて歩いていたら胸痛など)
⇨Settingを確認
・不安定狭心症なら頻度が増悪してないか確認したい、安定狭心症なら同様のエピソードあったかも⇨Frequency確認
・痛みの場所が本当に心窩部周囲か。心窩部周囲ではないなら気胸など他疾患の可能性
⇨Location確認
・痛みの強さが疾患の推定に役立つことがある(典型例なら心筋梗塞や解離は結構痛い)
⇨Intensity確認
・重苦しい、締めつけられる→心筋梗塞っぽい。裂ける→解離っぽい。チクチク→心因性っぽい。ピリピリ→帯状疱疹っぽい。⇨Quality確認
・顎・肩・歯に放散→心筋梗塞っぽい、痛みが移動→解離っぽい
⇨Radiation確認
・吸気で痛い→PE、胸膜に炎症がある、筋骨格が痛い。仰臥位で胃がムカムカ→GERD
⇨増悪・寛解(AA)確認
・自分が想定していない随伴症状を教えてくれるかもしれない。発熱、咳・痰→肺炎
⇨Associated symptoms(随伴症状)確認
・過去の診断が役立つことがある。以前の気胸の時と同じ痛みです
⇨Simillar episode
・上記全ては聞かない。残り時間やどの疾患を疑うかに応じて選択する。
症状の有無を聞く時に考えていること
- 鑑別カテゴリを意識しながら症状の有無について問診する
- 症状+臓器+病態の足し算をする前に臓器固有疾患から考える
- 鑑別疾患を挙げながら各臓器の問診セットのうち聞く必要のあると思うものを聞いていく
- 必要に応じて疾患特異的な問診をする
- メモするのはカテゴリと問診項目。症状あれば丸で囲む。
・胸痛+心臓+固有疾患=ACS・PE・解離
⇨(これらを念頭に)嘔気・冷汗、長期安静の病歴、裂ける痛み・移動
⇨心臓症状(動悸、失神、浮腫など)
※ACS・PE・解離の3つで1つのセットにしておくと良い
※固有疾患を考える時は詰まる・捻れる・破れるを連想
・胸痛+肺+固有疾患=自然/緊張性気胸
⇨身長が高くて痩せ形かを脳裏によぎらせる
⇨肺症状(呼吸困難、咳・痰、血痰)
※気胸は肺の臓器固有疾患。肺+Traumaで挙げても良い
・胸痛+食道・胃+固有疾患=胃潰瘍、GERD
⇨NSAIDs内服やピロリ、仰臥位で症状増悪
⇨消化器症状(呑酸、腹痛、血便・黒色便)
※NSAIDsは必ず胃薬と出されているか確認
・胸痛+Infection=肺炎(肺で想起できなかった場合)
⇨発熱
※胸膜に炎症が波及すると痛いため
※感染では、臓器名+炎をとりあえず考えてみると良い→感染でない疾患も想起可能
・胸痛+Trauma=自然/緊張性気胸(肺で想起できなかった場合)
⇨外傷
※外傷がなくても気胸になるが、鑑別に挙げやすいため
・胸痛+Psych=パニック障害
⇨ストレス
既往の問診で考えていること
- 既往の問診を型通り行う
- 型のうちPAM FASは聞くことが多い=PMH、Allergy、Meds、FH、Alcohol、Smoke
PMH=Past Medical History FH=Family History
心配事とまとめで考えていること
- 心配事を聞いた後、メモを見ながらまとめを話す。
- まとめは何を疑っているのか友達に分かるような10秒くらいのプレゼン→心配事を織り混ぜる→身体診察させてくださいという構成を意識する
(みぞおちに10段階で7くらいの締め付けるような痛みがあって、30分以上続いたという理解で間違いはないですか?お父様が心筋梗塞ということもあって、心配だと思います。病気についてさらに調べるために次は身体診察をさせてください)
身体診察で考えていること
- 手指消毒をする+意識レベル・バイタル・全身状態の3つをまず述べる
- 身体診察は神経診察が必要なものとそうでないものに分けて考える
- 神経診察は特に不要なので、以下のルーティンの診察から必要なもの(太字)を行う
- 心臓、肺は鑑別カテゴリなので行う(腹部は余裕があれば)
Head:圧痛の有無など
Eye:瞳孔の大きさ・左右差・対光反射、眼球結膜の貧血・充血・黄染など
Ear:外耳の皮疹、鼓膜の発赤・腫脹など
Nose(Sinus):副鼻腔の圧痛・叩打痛など
Throat:咽頭・扁桃の発赤・腫脹・白苔の付着など
頸部:頸部リンパ節腫脹、甲状腺の腫大・結節・圧痛、JVD(頸静脈怒張)
心臓:心音(I音、II音、収縮期・拡張期雑音、3音、4音)
肺:胸郭・呼吸の様子(呼吸補助筋)、肺音(両側清で左右差なし、Coarse/fine crackle、Wheeze/Rhonchi)、胸部の皮疹
腹部診察:平坦・軟・手術痕、腸蠕動音の亢進・減弱、鼓音・濁音、圧痛・マックバーニー・筋性防御・反跳痛、腫瘤触知、肝脾腫・肝叩打痛・マーフィー
CVA knock pain:CVA knock painの有無
下肢:下腿浮腫・把握痛・発赤、拍動など
メモの一例
プレゼンはメモを見ながら行う。
- メモ左上の時間経過に関するプレゼン
⇨一文が長くなり過ぎないように注意。問診がしっかりできていれば、基本的にはOPQRSTを一文が適切な長さになるように読み上げれば大丈夫なはず。 - 臓器別の症状に関するプレゼン
⇨陽性所見所見、除外したい疾患の所見、よくある疾患の所見、その他陰性所見という流れ - 既往に関するプレゼン
⇨読み上げればOK。時間がどうしてもない場合、重要度の低い箇所のプレゼンは省略する。内服治療されている5年来の糖尿病と重喫煙歴、心血管系の家族歴が既往にありますのような感じ。 - 身体診察に関するプレゼン
⇨陽性所見所見、除外したい疾患の所見、よくある疾患の所見、その他陰性所見という流れ - 鑑別疾患に関するプレゼン
⇨一番に疑っている疾患、その主な根拠になる所見3つ程度、他の鑑別とその主な根拠数個、今後の検査・治療
除外したい疾患とは、命に関わる・機能障害を生じるような疾患のことです。
胸痛であれば、命に関わる疾患としてACS・PE・解離、喘息や緊張性気胸は怖いです。
慣れてきたら、これらを除外するように意識して診療したことをアピールできるプレゼンができると良いと思います。
~痛い系のポイント~
・痛い系は発症様式がメインで重要。OPD系やOPQRSTなど発症様式を聞くためのゴロを使ってしっかりグラフが書けるような病歴をとる。痛い系で発症様式が問診のメインとなるのは、発症の仕方や痛みがゼロになるかなどで危険度の評価や鑑別疾患を絞りやすい症候だから。
・ゴロに加えて関連の問診(食事、運動、姿勢、時間帯など)も適宜使う
・痛い系では原因カテゴリは考えなくて良い。痛い領域近辺の鑑別臓器を挙げるところからスタート。鑑別臓器を挙げたらその臓器の問診セットを使って問診していく。ただし、このやり方では嘔吐や腹痛、下痢・便秘などは聞けるが疾患特異的な質問は抜けるので注意。イレウスで排ガスなど
・症状+臓器+病態のヒントから出すことが難しい臓器固有の疾患は、頑張って覚えておくのがおすすめ。例えば、肺であれば喘息・COPD・気胸など(症状+肺+VINDICATE P2でこれらを出すのは難しい)
・内臓痛と体性痛、関連痛の特徴は押さえておく。これも鑑別を絞るのに有用だから。虫垂炎が全てを内包したとても良い例。
※PCC OSCEのコアカリの表に記載のある項目(鑑別・問診・身体診察)には赤線が引いてあります。載っていない項目については引いてないので覚える必要はありませんが、学習の役に立つかもしれないので参考までに記載しました。
※鑑別疾患は全て挙げられるようにすることをお勧めしますが、問診・身体診察は8割程度の項目が埋まれば良いと個人的に考えます。
#胸痛
@鑑別
・胸痛では鑑別臓器として心臓・肺、消化管(食道・胃)を考える。必要なら皮膚・筋骨格も。消化管を忘れないように注意。
・鑑別臓器の数が少ないので、鑑別疾患が最も多く考えられそうな肺(心臓でも良い)にだけは鑑別病態を組み合わせて考える
・心臓の鑑別疾患を考えていく
・心臓を鑑別に挙げた時点でまず、心臓の臓器固有疾患を挙げる。心臓の臓器固有疾患として心筋梗塞系・解離・PEの3つをセットで挙げられるようにする(詰まる・捻れる・破れる)。このセットはとても重要で3大胸痛疾患として知られている。
・心筋梗塞系は安定狭心症・不安定狭心症・心筋梗塞のこと。
・肺の鑑別疾患を考えていく。肺の鑑別を挙げた時点で肺の臓器固有疾患=喘息・COPD・気胸を考える。気胸は胸痛をきたす。自然と緊張の両方を考える。
・肺はメイン臓器なので症状+臓器+病態=胸痛+肺+VINDICATE P2
胸痛+肺+V=PE(心臓の臓器固有疾患で挙げられているなら不要)
胸痛+肺+I=肺炎・胸膜炎
胸痛+肺+N=肺癌
胸痛+肺+D=ー
胸痛+肺+I=ー
胸痛+肺+C=ー
胸痛+肺+A=ー
胸痛+肺+T=緊張性気胸・自然気胸(外傷なくても気胸は生じるがイメージしやすいため)
胸痛+肺+E=ー
胸痛+肺+P=ー
胸痛+肺+P=パニック障害
・消化管(食道・胃)を挙げた時点でまず臓器固有疾患を考える。食道破裂・食道痙攣、GERD、胃潰瘍を覚える
・皮膚では帯状疱疹、筋骨格では肋軟骨炎、肋骨骨折などが重要だが、PCC OSCEでは不要。
#Tips 鑑別編
・心臓の臓器固有疾患は他にも弁膜症・心筋症などがある。
・Infectionでは臓器名(肺や胸膜)に~炎と安直につける。
・Neoplasmでは臓器名(肺や胸膜)に~癌と安直につける。癌が胸膜に触れれば胸痛が出る。
・胸痛が生じるのは胸膜に対して物理的な刺激が加わるか、炎症などの化学的な刺激が加わった場合。肺炎で胸が痛くなるのは炎症が胸膜に化学刺激を与えるから。吸気で痛いのは吸気で炎症刺激のある胸膜が広げられたからとイメージする。吸気で痛い=胸膜病変の可能性と考えやすい。PEは吸気で痛くなることがあるが胸膜は関係なさそうなので、吸気で大量の血が肺に送られ詰まった肺動脈が押し広げられて痛いとイメージすると覚えやすい。
・痛い系の症候では炎症があることが多いので、感染と同じように臓器名に炎をつけてしまえば良い。例えば、大腸炎。これで物足りなければ病態を追加して虚血性や潰瘍性、細菌性などつけてみれば鑑別は広がる。
・痛い症候や突然発症の症候では、構造が壊れたことに起因するものも多く、管(血管、消化管など)が詰まる・捻れる・破れるをイメージすると良い
・心筋梗塞系の鑑別は心電図(ST上昇)と心筋マーカー(トロポニン)で行う。ざっくりしたイメージでは、両方陽性=STEMI、トロポニンのみ陽性=NSTEMI、両方陰性=不安定/安定狭心症と捉えておくと良い
@問診
・詳しく教えてください⇨OPD系をフルで聞く
・具体的にはOnset, Progression, Duration, Constant, Setting, Frequency, Location, Intensity, Quality,Radiation, AA, Assosiated, Similarを聞く
・Settingでは何をしていた瞬間に痛くなったかが言えるか確認し、言えれば突然発症と考える。
・心臓の臓器固有疾患で疾患特異的な問診を追加でしたければする。
・心臓の臓器症状として、浮腫、起坐呼吸、失神などを聞く
・肺の臓器症状として、呼吸困難、咳・痰を聞く
・消化管の臓器症状/GERD・胃潰瘍症状として、を聞く
・病態(VINDICATE P2)を全身症状という観点でざっと考え、I;発熱、T;外傷、P;ストレス、予期不安などを聞く。
・既往はPAM系を聞く。どの症例でもPMH, Allergy, Meds, FH, Alcohol, Smoking, Occupationは最低限聞くと良い。MIが鑑別に挙がる時はExerciseを聞いても良いかもしれない。女性の場合、月経・性交歴が必要かどうかは必ず考える(胸痛では時間があれば)
・まとめと心配事を聞く。
※多めに書いてある。全て聞くのは時間的に厳しいので赤線を優先。個人的に赤線の項目が8割以上聞ければ良いと考える。
#Tips 問診編
・痛みがある場合は関連の問診も忘れない。食事、運動、姿勢、時間帯などに関連して痛みがでないか聞く。
・持続時間について、国立循環器研究センターによると、
数秒⇨心筋梗塞系らしくない
数分~長くても20分⇨狭心症らしさがある
30分以上⇨心筋梗塞らしさがある
・Progression、持続時間、頻度、Simlar episodeについては、不安定狭心症で重要。増悪傾向でより長く・頻回に、より軽い労作で、安静時にも、という病歴があると不安定狭心症らしさがある。
・Locationについて、痛む場所が指ではっきり指し示せる場合は心筋梗塞系らしくない(らしくないだけで否定はできないことに注意)。心臓は内臓痛なので痛い場所がはっきりしないはず。指差しできるなら痛い場所がはっきりしている体性痛の皮膚・筋骨格疾患らしさがある。
・Quality(痛みの性状)について、心筋梗塞系ではのしかかるような・締め付けられるような重い痛みが多い。裂けるような痛みは解離に多い。チクチクは心筋梗塞系らしさがなく、肋間神経痛などを連想する。ピリピリは帯状疱疹。
・Radiationについて、心筋梗塞では顎・歯・肩に放散することが多い。急に肩が痛くなったと整形受診して実はMIだった症例もあると聞いたことがある。解離は裂けていくにつれて痛む位置が下方に移動する。
・随伴症状として冷汗は重要で、危険なサインの1つ。
@身体診察
・手指消毒をして、意識レベル・外観・バイタルを簡潔に述べてから診察を始める。
・動作・感覚の症候ではないので神経症候ではない⇨一般診察をする
・フルの一般診察=#1をコピー
・上記に加え、実際に手を触って冷汗があるか確かめても良いかもしれない。
・時間がない場合は鑑別臓器・疾患に関係する身体診察から優先的に行う。
・鑑別臓器は心臓・肺なので、服を1枚脱いでもらい、聴診器を温めて、心音・肺音の聴診。頸静脈怒張、頸部血管の聴診、下腿浮腫・DVTの診察。
・鑑別疾患として緊張性気胸が挙がるので、胸郭の左右差、気管の偏移、握雪感など調べる。
・鑑別臓器として消化管が挙がるので腹部診察(時間が余れば)
※多めに書いてある。全て行う必要はなく、個人的には赤線項目の8割程度できれば良いと考える。
#Tips 身体診察編
・頸静脈怒張は右房圧測定的な観点から正確には45度で見ますが、試験会場のベッドが45度にできるかどうかは微妙です。個人的には、共用試験ガイドブックに内頸静脈拍動を座位で観察とあるので座位で頸静脈を診察して「座位で視認可能な明らかな頸静脈怒張はありません」と話すことを考えました。つまり、座っていても出るほどのひどい頸静脈怒張は否定的だが、45度にしたら確認できる軽い頸静脈怒張の存在は否定できないと分かっていて診察しているということを暗に伝えるようにした。
次は痛い系その3腹痛を紹介します。