メモ・プレゼンの型の紹介 〜型を意識したメモで体系的な診察・プレゼンを目指す〜 #13

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メモの型

プレゼンの型

 メモは以下の画像のように十字を引いて4分割します。メモの型ですが、左上に患者情報、主訴、グラフの問診+左下に症状の有無+右上に既往+右下に身体所見、鑑別、検査を書きます。

 今日はどうされましたか?と問診を開始する前に、しっかりアイコンタクトを取りながら、もしよろしければお話の途中でメモを取らせて頂いても良いですか?と一言かけるのが個人的にはおすすめです。

(その理由について

 逆説的ですが、患者さんが話し始めたタイミングでメモを取り始め、メモが取り終われば目を見ながら「朝9時から痛み始めたのですね」とオウム返しした方がアイコンタクトを取りやすいからです。練習をしていて思ったことですが、患者役は前半は病歴を思い出すプロセスがあるので目をあまり合わせませんが、後半は言うことが整理されているので目を見るようになる傾向があると感じました。一方で医師役は前半は集中して話を聞いたりアイコンタクトを意識するので患者役の目を見ていますが、後半で何が言いたいか分かると話の途中でメモを始める傾向があると思います。これがすれ違いの原因で、運が悪いと模擬患者さんはメモばかりでアイコンタクトをとってもらえなかったという印象を持ってしまいます。これを防ぐためにはメモの了解を得たら、患者さんが話し始めたらすぐメモをして、それで節約された時間を確認のオウム返しをしてアイコンタクトすることに消費するという方が実は有効だったように個人的に思います。)

 問診を開始したらまず、詳しく話を聞いている間にグラフの問診のゴロを先に書きます。そして、聞いた情報を割り振っていきます。例えば、詳しく聞いたら、「皿を取ろうとしたら胸が痛くなって30分経っても苦しさが増すばかりだから来たんです」と言われれば、S、D、Pの蘭はすでに埋められたことになります。後は残りのゴロの必要な項目を聞いていくようにするとスムーズです。問診をしている時に、鑑別臓器(下の例では心、肺、消、皮)や鑑別病態(下の例ではInf, Trauma, Psych)が挙がった時点でカテゴリを記入していきます。

 グラフの問診フェーズが終了し症状の有無の問診のフェーズに入れば、記入されているカテゴリの症状を問診セットを元に適当に数個聞きます。例えば、心のカテゴリでは動悸、浮腫などを聞きます。問診セットにない疾患特異的な症状を聞く場合はPE:下肢の疼痛なしのように書きます。陽性のものは丸で囲むと良いです。

 鑑別疾患は根拠がいくつか揃ってこれだと思った時点で書きましょう。診察しているうちにこれだと思った疾患を忘れて迷宮入りすることがあるからです。一番重要なことだと個人的に考えています(ただし、アンカリングバイアスには注意しましょう)。

 既往の問診のフェーズに入ればまず既往系のゴロを書いてしまいます。多少黙る時間ができても大丈夫です(むしろ、沈黙は自分は落ち着いて診療できているんだとポジティブに捉えるくらいでちょうど良いと思います)。書けたら必要な既往系の項目を聞いていきます。

 理想は既往系の問診が終わるまでに最も疑わしい鑑別疾患を挙げることです。時間がある場合はルーティン診察フルとその他必要な診察をすれば良いです。時間がない場合はmost likelyな疾患であるならおそらく異常が出るだろうと思う身体所見を優先的にとっていきます。心筋梗塞なら冷汗、心雑音や心不全徴候(肺水腫によるCoarse crackle、頸静脈怒張、下腿浮腫など)を優先的にとっていきます。

 most likelyな鑑別が分からない場合はまず鑑別臓器・病態を漏らしている可能性に思考を巡らせてください。例えば頭痛の症例で鑑別臓器に脳神経疾患、副鼻腔炎、鑑別病態に脳血管、感染、腫瘍、薬剤、外傷、精神疾患など考えたが分からない場合はもう一度落ち着いて鑑別臓器・病態について考え直すと良いです。この場合、目を鑑別臓器として逃したために緑内障が思いつかなかった可能性があります。身体診察で新しく目を鑑別臓器に挙げて、目を含む鑑別臓器に関する身体診察を進めます。目の身体診察をしている時に目に関する問診をして情報を増やし、診断に近づくようにします。臓器・病態カテゴリを鑑別に挙げ忘れるとそもそもその症状に関することを調べようと思わなくなります。忘れた時はカテゴリを全て思い出せるようにしておくと良いです。

 身体所見のメモは基本的にはしません。例えば、most likelyな疾患が分かっていて身体所見も想定の範囲内のものが集まった場合は、文脈があり覚えていられるのでメモは不要です。

 ただし、トラブルが生じた場合はメモします。most likelyな疾患が分からないなどが原因で、予想外の身体所見が出てあたふたしている場合などです。文脈もなく焦っているので身体診察の所見を忘れるリスクがあり、落ち着いて思考を整理するという意味でも1つの身体診察が終われば次の身体診察をする前にメモを取るようにします。

 対応については好みがあると思うので、どうトラブルシューティングするか考えておくと良いと思います。most likelyな疾患が分からない時、上述の対策も用意しておくと良いですが、個人的には症候ごとの鑑別疾患を全て言えるようにしておくことが最大のリスクヘッジになると思います。

 報告に与えられる4分のうち1分で右下の欄に意識、バイタル、外観、陽性所見を記載します。most likelyな疾患に必要な検査・治療で代表的なものを直感的に1ー2個書きます(CBTレベルでも良いと思います)。後は報告の構成をなんとなくイメージして1分を超えないうちに早めに報告を開始します。

@プレゼンの型

 病歴の部分のプレゼンの型は、基本的にはメモを順番に読み上げていけば勝手に出来上がっていることが多いです。

 以下に例を示します。

写真

医療面接で得た情報をプレゼンする時の主なポイントは、自分が何を疑っているのか分かるように医療面接での情報を取捨選択することです。心筋梗塞など心臓の病気を強く疑うなら上記のように心筋梗塞らしい病歴をしっかり述べます。疑いの低い肺や消化器、皮膚は代表的な陰性所見をいくつか述べて、〇〇症状はありませんとまとめて大丈夫だと思います。

 一文を短く話すこと医学用語に置き換えて話す(メモする)ことできるだけ時系列で話すことを意識できると聞きやすいプレゼンになります。一文に盛り込む要素は3つまでと意識しておくと良いです(上の例では、「今日の9時に発症+増悪傾向+30分持続」の3つで区切っています)

 意識レベル・バイタルサインは患者さんの命に関わる重要な情報なのに忘れがちです。言い忘れたから不合格とはならないようですが、忘れないようにしましょう。

 病歴部分の報告ができたら、most likelyな疾患、その根拠を3つ前後、今後必要な検査・治療を話します。時間に余裕があれば、他の鑑別疾患を挙げ、合わないところを話します。

 例示

 当然ですが、鑑別や検査・治療は完璧である必要はなく、CBTレベルの基本的な検査と治療が1つ以上言えれば十分だと思います。

 逆に完璧を目指すと時間内に終わらないので、細かいところは置いといて、大事なところから優先的に落とさず伝えるという姿勢が大切だと思います(個人的に上の例では心筋梗塞なら心電図と心臓カテーテルと言えれば良いと思ってます)

 プレゼンの途中でアナウンスが鳴ってしまったら鑑別と方針だけはダメ元で滑り込ませると良いと思います。「身体診察ですが、心音は1音・2音を聴取し、収(アナウンス、途中でも切り上げ)。心筋梗塞を考え心電図・心カテします」

 聞き忘れた問診項目やし忘れた身体診察があって時間が余った場合は、全て報告し終えてから「下肢の疼痛や把握痛についてはまだできてないので後で調べてきます」などと話しておきましょう。点数が加算されるかは分かりませんが気分的に楽になります。

 個人的な見解ですが、鑑別に迷う場合は鑑別を同列に報告すれば良いと思います。僕は用意された症例のmost likelyな鑑別を当てることよりも正解の疾患を鑑別(疑っている対象)に挙げることが大事だと考えているからです。鑑別に挙がっていなければそもそも疑えていないので、検査をしても基本的には診断にたどり着けませんが、疑っていれば診断にたどり着いて必要な介入ができます。迷う場合の報告は以下のように行います。(咳・痰を具体例にした)

 「鑑別としては、肺癌と肺結核を疑っています。3ヶ月前から緩徐発症し徐々に増悪していること、血痰や体重減少があること、左肺の呼吸音の減弱が見られることがその根拠です。37度台前半の微熱が続くことは結核が示唆的ですが、ブリンクマン800の喫煙歴は肺癌が示唆されます。今後は別室隔離、喀痰とってチールニールセン染色、IGRA、気管支鏡検査などが必要と考えています。結核なら多剤併用で抗結核薬を投与し、肺癌なら手術やケモ・ラジなどステージに応じた治療を考えます。健診に行っているかどうか、周りに同じ症状の人がいるか、栄養状態はどうかなどはまだ確認できていないので、確認したいと思います」

 個人的な考えですが、鑑別を1つに絞ることはせずに同列に列挙⇨共通の合う点を述べる⇨それぞれの疾患の合う点・合わない点⇨鑑別のために必要な検査⇨それぞれの疾患の治療法⇨まだ聞けてないことがあれば報告 という対策を考えていました。

 鑑別疾患の見当がつかない場合は様々な作戦が考えられますが、個人的にはもし分からなければ、

・どこの臓器か+どんな病態かを根拠込みである程度明らかにすること

・その上で鑑別疾患を同列にいくつか列挙し、合う点合わない点を述べること(可能性が低いものも挙げる)

・緊急性があるかを判断すること

・疾患を明らかにするためにすべき検査・治療の要点を伝えること

(もし途中ですべき問診・身体診察も思いつけば話すこと)

 以上4点を意識してプレゼンします。具体例を以下に示します。

 24歳女性、主訴;腹痛。昨日の夜から持続する右下腹部痛で、痛みの移動なし・増悪寛解なし・同様のエピソードなし。嘔吐・下痢・便秘・血便・食事と痛みの関連など消化器症状なし。赤・黒・白色便・黄疸なしで肝・胆・膵症状もなし。排尿痛・血尿など泌尿器症状なし。月経は28日周期で整、最終月経は4w前、性交渉は最終月経からだと昨日のみで妊娠の可能性を本人否定、膣分泌物は普段と同じ。発熱、体重変化など全身症状なし、外傷なし。既往に特記なし。意識・バイタル正常、外観はやや苦悶様。身体診察は右下腹部に圧痛ある以外異常なし。

 上記の情報を集めましたが、鑑別疾患の見当がつかなかった場合、4点を意識すると以下のプレゼンのようになります。

 「鑑別についてですが、卵巣、子宮などに病変のある婦人科疾患で血管性か感染性の病態が鑑別に挙がると考えます。根拠は、昨日から急性発症した右下腹部痛で圧痛があること、消化器症状・泌尿器症状がないことが挙げられます。子宮外妊娠だと月経・性交歴が合わない点、骨盤腹膜炎だと発熱や膣分泌物に異常ないことが合いません。虫垂炎・憩室炎など消化器疾患も可能性は低いですが、鑑別には挙がると思います。バイタルは安定しており現時点では緊急対応は不要ですが、血管性を鑑別にしているので入院して経過を見ても良いかと思います。今後の検査は腹部エコー、性病検査、腹部CTなどが必要かと考えます。卵巣捻転を疑い腫瘤があるか意識して触診しておらず、何をしている時に痛くなったのか、突然痛くなったのかなどは確認できていないので確認したいと思います」

 卵巣出血をイメージして作られた症例でやや要点を逃すと上記のような状況になり得ます。卵巣出血の要点は生理が来る前に多い(黄体が嚢胞化し出血、黄体ができるのは生理前)、性交した後数日までに多い、右に多い、外妊と卵巣出血は婦人科疾患の原因として多いなどです。

 鑑別疾患の見当がつかなかった場合は最悪の場合ですが、上記のように対応すれば良いです。最悪の場合にならないためにコアカリの表に載っている鑑別疾患は全て覚えておくとリスクヘッジになります(上記の例でも卵巣出血を鑑別として覚えていれば消去法で答えにたどり着いた可能性があります)

 次回は37症候一覧と症候別アプローチの概略について紹介します。1;痛い系、2;神経症状系、3;呼吸・循環器・消化器・その他マイナー症候、4;全身症状系に分類してあります。これら4つの分類それぞれのアプローチのポイントを紹介しているのでお勧めの記事です。

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