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「時間経過のグラフを書くための問診」のゴロを紹介
ここではゴロを2種類紹介します。
1つはOPQRSTというゴロです。認知度が高く、覚えやすいです。
2つはOPD CSF LIQR AAA+ Sim/ Conです。多くの問診項目を覚えられますが、最初のハードルが高いです。USMLE 2CSの勉強をしている最中に見つけたゴロです。アル中の人をイメージして、CSF=CerebroSpinal Fluid(脳脊髄液)にはAAA級のリキュール(お酒)が染み込んで(Sim/Con)いると覚えます。
個人的には、2つ目のOPD~を覚えています。OPQRSTを使っていた時に比べて、時間経過のグラフを鮮明に描けるようになり、自分の中で明らかに問診の質・量的にレベルが上がった感覚があったからです。実はコスパが良いゴロだったので個人的にはおすすめです
ゴロは覚えるならどれか1つにすることをお勧めします。同じPでも一方のゴロはProvoke、他方はProgressionを充てるなどしており、ゴロを複数覚えることで記憶したことがごちゃ混ぜになると良くないからです。
ゴロ1:OPQRST
信州大学医学教育部門が発信しているこちらのサイトを参考にさせて頂きました。
Onset:発症機転。「いつから?」
Provoke&Palliative:増悪・寛解のこと。「どんな時に良くなりますか/悪くなりますか?」
Region:部位。「どこが痛いですか?」
Symptoms:随伴症状「他に何か症状はありますか?」
Time course:時系列(時間経過が書けるように努める)
http://www.shinshu-u.ac.jp/faculty/medicine/medical_education/support/knowledge/2015/06/post-4.php
ゴロ2:OPD CSF LIQR AAA+ Similar/ Concern
最初のOPDは覚えましょう。それ以降の部分はアル中の人をイメージして、CSF=CerebroSpinal Fluid(脳脊髄液)にはAAA級のリキュール(お酒、LIQR of AAA)が染み込ん(Sim/Con)でると覚えます。
Onset:いつからか
Progression:だんだん悪くなっているか良くなっているか
Duration:どのくらいの時間続くか
Constant:ずっと症状があるか?(症状がない瞬間があるか)
Setting:(症状がある/出た時に)何をしていたか
Frequency:どれくらいの頻度か
Location:症状があるのはどこか
Intensity:10段階で表すとどれくらいか
Radiation:痛みの移動や放散痛があるか
Abbreviating/ Aggravating:増悪・寛解因子は何か(単語は難しいので暗記不要で、A2つ分で増悪・寛解と覚えます)
Associated symptoms:他に症状はあるか
Similar:過去に似たような症状はあったか(初めてか?)
Concern:何を心配に思っているのか(解釈モデル)、日常生活で影響が出ている(心配な)こと
補足
・余裕があればOPDのPにProvoke=誘引因子も追加すると良いです。
・Settingの問診で、何をしていた瞬間に痛みが出たか言えるなら突然発症と考えられることから、Sudden的な意味もあります。覚えやすい方で覚えれば良いですが、個人的にはSettingがおすすめです。Settingで症状がある時に何をしていたかを聞けば、突然かどうかや誘因などについて判断できることが多いです。しかし、Suddenで覚えて症状は突然でしたか?と間違えて聞くと、誘因の情報は期待できない上に、突然かどうかもはっきりしなくなります。なぜなら、患者さん(特にご高齢の方)の中には、例えば30分前から徐々に痛くなってきていても、短時間で起きたことなので突然だと判断して、「はい、突然でした」と答える方がいるかもしれないからです。
各問診項目の重要性
問診項目の包含関係は、OPD系 ⊃ OPQRSTなので、OPD系を紹介することでOPQRSTも紹介したこととします。
なぜその問診が重要かについて意見は様々ありますが、いくつかピックアップして紹介しています。紹介内容は基本的に書籍に基づいていますが、出典書籍を記録していなかった点はご容赦ください
Onset
「いつからですか?」「いきなりというのは、数秒後、数分後、数十分後、数時間後だとどれが一番近いですか?」など
Onsetでは秒、分、時間、日、月、年のどの単位かをはっきりさせると良いです。これがはっきりしない返答の場合、こちらから単位を提案しておおよその当たりをつけるようにします。
急性か慢性かで考える鑑別や危険度が変わってくるため問診します。
突然ー急性発症の場合、血管系・感染系、外傷、筋骨格系などのカテゴリを考えることが多いです。
数週ー数年単位の慢性発症の場合、腫瘍、自己免疫、内分泌系などのカテゴリを考えることが多いです。
Progression
「悪くなってきていますか?」「だんだん悪くなっている、良くなっている、変わらないのどれですか?」
同じ症状でも、悪くなっていく途中なのか、良くなっていく途中なのかで対応が変わる場合があるため聞くと良いです(特にアナフィラキシーや喘息など)
腫瘤など構造異常が大きくなる / 詰まる・破れる・捻れるなど構造が破綻して改善しない状態である / 体が対応できてない感染症である / 機能が破綻してしまっているなど積極的な医学的介入が必要になりそうなものは、基本的には増悪傾向になりやすいことから、鑑別にも役立ちます。
全体として良くなることがあったなら病気として可逆性のある病態(機能性疾患、精神疾患など)が想定できます。
Post CC OSCE対策的には不要ですが、ピットフォールとして、SAHや解離で破れたり、裂けたりした瞬間は痛いが、時間が経つと痛みがなくなってきたり裂けてない時は痛くないことがあるので、器質性疾患にも注意は必要です。良くなっているのになぜ来たのかにフォーカスを当てられると良いです(突然、経験したことのない痛みがあってびっくりしたからなど)
余裕があればProvoke=誘引因子も追加すると良いです。「何か思い当たる原因はありますか」「寒いところに出て運動すると咳が出ませんか?」など。思い当たる原因を聞くと案外すんなり答えに辿り着けることがあります。もちろん、患者さんの予想が正しいとは限りませんが・・・
Duration
「どれくらい続きますか?」「数秒、数分、数十分、数時間だとどれになりますか?」
ACS、BPPV、1次頭痛などでその持続時間が他疾患との鑑別に有用なため聞きます。
MIの胸痛は30分から数時間であることが多く、数日前からずっとというのは非典型的(MIは臨床的にAtypical is typicalなのでこれのみで否定せず総合的に判断しますが)と言われています。狭心症なら数分が典型で15分以上であれば狭心症に分類しないでMIを疑いながら対応します。
BPPV系はBPPV、メニエール、前庭神経炎、小脳梗塞などで持続時間が異なります。小脳梗塞は血栓が詰まった瞬間から血栓が溶けない限り、基本的にはずっと症状が続いているはずです。
片頭痛は4-72時間と定義されています。2年前から波はあるが痛みがゼロになることなくずっと続いているというのは片頭痛の可能性は低く、むしろ、うつ病による頭痛、緊張型頭痛などが鑑別になると言えます。
Constant
「ずっと症状は続いてますか?」「症状がない時間はありますか?」「波はありますか?」
発症してからずっと持続して症状が0にならないということは、できものがある、詰まる・捻れる・破れるなど構造的な異常が存在し続けている、感染症などによる炎症が続いているなどの状況が想定できます。また、介入の必要性がある可能性が高いです。
発症してから症状が0になる時があってそれを長期間繰り返すということは、可逆的な病変が示唆されます。この場合、介入の可能性は低いです。
平滑筋の痛みは間欠的である=波があることが特徴です。間欠的な痛みを訴える場合、臓器の鑑別として平滑筋のある臓器=消化管、尿管、胆嚢などの可能性があります。Post CC OSCE対策では不要ですが、ピットフォールとして尿管結石は痛みがずっとある中で痛みに波があるので、聞き方に注意しないとずっと痛いという返答になることがあります。
波がなくずっと痛い場合は体性痛(腹膜炎、骨折など)や虚血(MI・PE、SMA塞栓など。脳梗塞で頭痛はないので注意。脳梗塞様の症状なのに頭痛があった場合は脳出血・解離による脳梗塞などを考える)などのカテゴリの可能性があります。
このように鑑別を絞ることができるため有用です。
Setting
「症状がある時に何をしていましたか?」「数秒から数分の単位で痛みがピークになりましたか?人生最悪の痛みですか?」
突然ですか?と聞いても患者さんと医療者で想定する”突然”が異なっている可能性があり、何をしていた瞬間に起きたと言えることが突然かどうかの判断基準の1つにします。
突然の頭痛なら、SAHを必ず疑って2つ目の問診をします。痛みが数秒から数分の単位でピークになったかどうかがポイントになります。
Frequency
「どれくらいの頻度ですか?」「1日/1週間に何回症状が出ますか?」「今はいつもと同じ症状ですか?」
頻度的に増悪傾向にあるのかや重症度を知るために必要な情報です(特に不安定狭心症や喘息など)
「数ヶ月前は動くと胸が数分痛かっただけだったのに、ここ1ヶ月は安静にしていても5ー10分痛い」、「喘息発作が数年に1回だったのが半年に1回出るようになっている」など聞き出せると今後の対応が変わります。
また、致死的な病態が何度も繰り返されることがないことも踏まえると頻度の問診は鑑別に有用です。
例えば頻度の問診をして、胸痛(または頭痛)が月に8回あって今回も同じ痛みだが、心筋梗塞(頭痛ならくも膜下出血)ではと思って来院した場合は、月に8回もMI(頭痛ならSAH)になるというのは考えにくいので、その時点では少し安心できます(狭心症などの可能性はありますが)。
注意点として、今回のエピソードが量・質的に異なっているかどうかは確認する必要があります。以前と同じではない場合、本物かもしれないからです。
Location
「症状があるのはどこですか?」「明確に指差す事はできますか?」
腹痛など痛い系の症候では場所によってある程度鑑別疾患に見当をつけることができるため問診します。
体性痛ならはっきりと痛みがある部分を指差すことができますが、内臓痛ならおよその位置しか示せない事が多いです。
指で指し示せる場合、腹膜炎でないなら筋骨格系の場合が多いです。押して痛みが出て、再現性がある場合は疑いが高まります。ただし、これでMIの場合もあるのであくまでらしさがあるというだけの話です。
体性痛、内臓痛、関連痛は意識すると良いです。鑑別や重症度の評価に使えるからです。蛇足ですが、虫垂炎が良い例なので紹介します。
虫垂炎の初期では、炎症のため虫垂から腹部の神経叢に内臓痛が入ります。内臓痛として虫垂のある位置周辺(右下腹が多いですが、それ以外の場所に虫垂が動いていることもあり、左側のことさえあり)に痛みがある場合もあれば、関連痛として虫垂とは別の場所(臍部痛・下腹痛)に痛みが出る場合もあります。これらの痛みは指差せないことが多いです。
炎症が虫垂の内壁から進展していき、外側の腹膜まで波及すると腹膜は体性痛なので痛みが限局・指差しできるようになります。虫垂がある位置なので典型的には右下です。内臓痛レベルの炎症なら薬も選択肢ですが、体性痛レベルの炎症ならオペというように治療方針も異なります。
このように病気の進展度合いについて想定するのにも有用です。
Intensity
「10段階で10 が人生で最悪の痛み、0が痛みなしで表すとすると大体どれくらいの痛みですか?」
7-8以上の痛みが6時間以上持続する場合はCTを考慮する場合があるなど、強い痛みが持続する場合には危険な病気が潜んでいる可能性があり、診断・治療方針の決定に影響があるため必要な情報です。ピークの痛みに達するまでの時間も重要です。
Quality
「どんな痛み(または症状)ですか?」「心臓の鼓動に合わせてドクンドクンと脈打つように頭が痛いですか?」「めまいとは具体的にどんな症状ですか?景色がグルグルする、フワフワする、立ち上がると目の前が暗くなるの3つだとどれが近いですか?」など
拍動性なら片頭痛らしさがある、チクチクではMIらしさはないが締め付けるようなものではMIらしさがある、裂けるような痛みでは解離らしさがあるなど痛みの表現によって想定する疾患があるためです。
Radiation
「痛みが移動したり、肩や顎などに抜けていくような感じ(放散痛)はありますか?」
臍から右下腹へ(虫垂)、だんだん下がっている(解離、尿路結石)、肩・顎に痛みが抜けていく(MI)など痛みの移動は感度は低いですが、特異度が高い事が多いので有用な項目です。
Abbreviating/ Aggravating
「何をすると悪くなる、または良くなるという事はありますか?」
後で紹介する関連セットで具体的に問診するとさらに良いです。
運動と関係あれば血管、筋骨格らしさが、食事なら血管、消化管、肝・胆・膵らしさがあります。時間と関係があり、明け方に多いなら喘息の可能性があります。体勢と関係があれば、膵炎では膵臓の炎症が背中側の神経にさわると痛いので仰向けでなく土下座のような体位(胸膝位)が楽などです。
特徴的な増悪・寛解因子から鑑別を絞るために有用です。
Associated
「他に症状はありますか?」「どちらの症状が先に出ましたか?」
随伴症状で鑑別を絞ることに有用です。胸痛のみでは鑑別が多くなりますが、胸痛+発熱+咳・痰なら肺炎の可能性が高そうだと考えることができます。
「他に症状はありますか」と尋ねることで、聞き忘れていた項目を話してもらえることがあるのでほぼ毎回使うようにしていました
随伴症状がある場合、前後関係をはっきりさせておきましょう。
例えば、嘔吐がメインで随伴症状に軽い頭痛がある場合、嘔吐をしてから頭が痛くなってきたのか、頭が痛くてなってから嘔吐が始まったのでは考える鑑別が異なるからです。
Similar
「過去に似たような症状はありましたか?」「このような症状は初めてですか?」
尿路結石の既往があって、今回の痛みと過去のものが似ていれば尿路結石らしさがありますが、似ていなければ他疾患の可能性が高いです(片頭痛も同様)。患者さんの痛み体験は合っていることが多いですが、それに騙される可能性もあるので、総合的な判断が必要です。
Concern
「何か心配に思っている事はありますか?」「日常生活に影響は出ていないですか?」「ご自身の症状をどう捉えていますか?(何か思い当たる節はありますか?)」
心配事について尋ねると、来院した動機・目的を知る事ができる場合が多いです。それを解決してもらえることを期待して患者さんは来ているので、患者さんの期待に寄り添った医療を考えるために必要です。
解釈モデルが正解にたどり着くヒントになる場合もあります。
関連の問診(ゴロに追加して覚えると良い問診)
関連の問診セットを追加で聞くことを考えると良いです。AAの増悪・寛解のところでも少し紹介したものです。
食事との関連
時間帯との関連
最近の体調との関連
体勢との関連
運動との関連
個人的には、食事⇨時間帯⇨体勢⇨(せい)最近の体調⇨運動と(多少無理はありますが)しりとりのように覚えています。
食事との関連では、「痛みが食事に関連しませんか?」「揚げ物や卵を食べた後に痛くなりませんか?」などを聞きます。空腹で痛いなら十二指腸潰瘍、食後に痛いなら胃潰瘍、脂肪で痛いなら胆嚢結石などの疑いが高くなります。
時間帯との関連では、「夜や明け方に悪化するなど症状が時間に関係しませんか?」などを聞きます。喘息・心臓喘息(心不全のこと)では関係する場合があります。
最近の体調との関連では、「最近1ヶ月で体調を崩しませんでしたか?風邪や下痢など何でも良いので少しでのあれば教えてください」などと聞きます。GBSやITP、心筋炎などで重要です。「最近1ヶ月で風邪ひいてないですか?」では胃腸炎があっても答えが「いいえ」になる場合があり、GBSなどにたどり着くことが難しくなることもあるので聞き方には注意が必要です。
体勢との関連では、「症状は体勢と関係しますか?」などと聞きます。寝転ぶと辛いなら心不全、前かがみや胸膝位で楽になるなら膵炎などの可能性があります。疾患の検討をつけるために必要な情報です。
運動との関連では、「動くと痛いですか?」「じっとしていても痛いですか?」などです。安静時も痛いなら虚血や腫瘍など異常構造物が神経に触っている、細菌や自己免疫などで炎症が持続的に生じているなど動きに関係なく痛みを生じる病態を考えます。動くと痛いなら狭心症のような病態のものと皮膚・筋肉・骨など運動器の病変を考えます。
まとめ
- OPQRSTかOPD系のゴロのどちらか一方を覚える事は最低限やると良いです
- 余裕があれば、その問診がどう役に立つのかの理解と関連の問診セットを覚える事をお勧めします
次回は症状の有無について問診するために使う臓器・病態ごとの問診セットを紹介します。
呼吸困難であれば心臓、肺、血液が鑑別臓器なので、循環器症状、呼吸器症状、血液症状をパッと数個聞きます。その時に循環器症状をまとめた問診セットを覚えていると便利なので、それを紹介します。
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